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■0250「岸辺のふたり」

 アニメーションの魔術だった。2000年作品。イギリス・オランダ合作。8分。配給=クレストインターナショナル。監督、デザイン、ストーリー=マイケル・デュドク・ヴィッド (Michael Dudok de Wit)。音楽監督=ノルマン・ロジェ(Normand Roger)、ドゥニ・シャルラン (Denis Chartrand)。使用曲=「ドナウ川のさざ波」

 2002年広島国際アニメーションフェスティバル・グランプリ&観客賞ダブル受賞。ペンシルとチャコールで描かれた影絵のようなイメージは、デジタルセルアニメーション制作システム「ANIMO」を使った。シンプルで深い味わいのある絵づくり。人物の表情は見えず、遠景もシンプルなタッチ。セリフは一切なく、アコーディオンとピアノによる音楽と、人物の微妙な動きで雄弁に語っている。

 ユーリ・ノルシュテインをして「この映画に初めてであった時、これは事件だと思った」「これは偉大な作品」と言わしめた傑作。8分間に、父への一途な思いを抱き続けた娘の一生を封じ込めた。それは長い年月であるとともに、永遠の一瞬のよう。ストーリーをあれこれと解釈するのではなく、静かに余韻に浸る。

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■0249「アララトの聖母」

 アトム・エゴヤン監督の「アララトの聖母」は、トルコ政府が1915年に行ったアルメニア人大虐殺を主題にしている。犠牲者は150万人と言われている。ヒトラーがユダヤ人虐殺の参考にしたらしい。これほどの大虐殺だが、ユダヤ人虐殺のように世界にはあまり知られていない。そのことが、激しく胸を締め付ける。劇中劇で再現された虐殺シーンは、当時のアメリカ人宣教師クラレンス・アッシャーの著作に基づいている。日本の三光作戦を連想させるようなひどい殺し方をしている。
 映画は、この事実を告発するだけではなく、母と子のきずなや映画を制作する監督自身の姿勢を問うような複雑な構造になっている。そのことで、虐殺の史実を訴えるという側面が、やや弱くなっていることは否定できない。しかし監督が亡命画家ゴーキー、映画監督サロヤンに託した思いは、十分理解できる。

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■0248「かもめ食堂」

 「かもめ食堂」(荻上直子監督)は、食欲をそそる。おにぎり食べたいなあ。フインランドに行きたいなあ。観終わって、ふわふわとした気持ちの良い感情が残る。腹八分の満足感。全編フィンランドロケによるコメディ・ドラマ。フィンランドのヘルシンキを舞台に3人の日本人女性と地元の人々の交流を、ややのんびりとしたペースで描く。特別な事件が起こるわけではないが、小林聡美、片桐はいり、もたいまさこの演技が、個性的で飽きさせない。
 雑でテンポが悪いように感じる場面もあるが、個性派女優が演じると、それが良い味に変わる。フィンランドの空気と、相性が良いのだろう。3人のそれぞれの背景について、最後まで何も説明しないのも、良かった。その存在感だけで十分。そして映画のパンフレットが、なかなか凝っていて楽しかった。

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■0247「007/カジノ・ロワイヤル」

 2006年製作の「007/カジノ・ロワイヤル」(マーティン・キャンベル)は、アクション映画として、とても良くできていた。これまでのボンド映画のクールな既成観念を打ち破った、スピード感あふれるリアルな肉弾戦が満載。ジェームズ・ボンドは、空港でのカーチェイスなど超絶アクションを生き抜くマッチョな体格だ。だから、とても痛い拷問シーンが効いてくる。思い出しても、痛い。ストーリー自体は、悪役が小粒な感じがするものの、考える暇を与えないほど、変化に富んでいる。携帯電話が、きわめて重要な役割を持つ点が、いかにも現代的だ。
  まずオープニングタイトルに感激。作品の核となるポーカーをイメージしたトランプの絵柄が、次々と変化していく。レトロ風に見えるが、映像処理のセンスは斬新。とても魅力的な愛すべきタイトルだ。そして、激しいアクションの連続。鉄橋アクションから大使館の大爆発までの息つく暇もないアクションシーンは、人間の限界すれすれ。しかしカメラワークがさえ、とてもリアルに感じる。公開前はミス・キャストと言われていたジェームズ・ボンド役のダニエル・クレイグは、若き時代のボンドとしては、それなりの魅力がある。ボンドガール以上に華を添えているヴェスパー・リンド 役のエヴァ・グリーンは、聡明な美しさが一段と際立っていた。

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■0246「寝ずの番」

 マキノ省三が日本で初めて映画撮影を行ったのが1907年の「狐忠信」。残念ながら完成には至らなかったが、「寝ずの番」が製作された2006年は、この年から数えて100年目となる記念すべき年だ。マキノ省三監督を祖父に持つ津川雅彦が、マキノ雅彦を名乗った初監督作品「寝ずの番」。中島らもの短編小説をもとに、上方落語界の通夜で繰り広げられるファンタジーあふれる人情喜劇が誕生した。出演者は、あっと驚く名演技を見せる。
 次から次へと飛び出す爆笑エピソード。通夜が艶(つや)へと変ぼうする座敷歌の饗宴。そのテンポ、そのユーモア、ペーソスが抜群に良い。「バチが当たるほど面白い!」という宣伝コピーは嘘じゃない。久しく日本映画が忘れていた、すこぶる粋な「お通夜喜劇」である。お葬式を描いた喜劇には、伊丹十三監督のデビュー作「お葬式」があるが、そのユーモアの質はかなり違う。同じ喜劇でも、「寝ずの番」は柔らかく温かい。ラストの軽さも絶妙だ。

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