私が、2009年に劇場で観た作品の中から選びました。ご了承ください。
【洋画】
★1位「パイレーツ・ロック」
私が、この作品を選ばなくて、誰が選ぶのかという気持ち。
リチャード・カーティス監督・脚本作品。イギリスに民放ラジオが存在していなかった1966年。ラジオでは、ポピュラーミュージックの放送時間が制限されていた。そのため、領海外に停泊した船から、合法的にロックを24時間流し続ける「海賊ラジオ局」が存在し、熱狂的な支持を集めていた。その船で暮らす魅力的なDJらを描いていく。政府は、「国の風紀を乱す」ラジオ局をなんとか取り締まろうとする。実話をもとにした、痛快な作品。楽しくて反骨精神に満ちている。まさに、ロックンロールでクールな群像劇。軽妙な船長役のビル・ナイはじめ、フィリップ・シーモア・ホフマンら、「やんちゃな中年DJ」たちが、最高にかっこいい。
★2位「セントアンナの奇跡」
白人の戦争に駆り出された黒人兵士たちの姿を描いているだけではない。セントアンナの大虐殺で戦争の悲惨さを表現しているだけではない。イタリアの民間人をと黒人兵士たちの交流をきめ細やかに描いていく。登場した主だった人たちが、ほとんど死んでしまうが、その交流は時間を超えて生き続ける。ラストシーンのなんと美しいことか。
スパイク・リー監督初の戦争映画だが、リー監督にしか撮れない戦争映画でもある。善悪にとらわれず、さまざまな立場の人たちを、多面的に描いているのも特徴。差別を乗り越えた多面性の共存を尊重するスパイク・リー監督の奇跡的な傑作だ。
★3位「スラムドッグ$ミリオネア」
なんという映画的な幸福感。立ち上がって、拍手したくなった。スラム街で育った少年が「クイズ$ミリオネア」に出演し見事に賞金を獲得する。筋書きだけをみると、いかにもハリウッド的なサクセスストーリーだが、カオス状態のインド・ムンバイで製作されたイギリス映画だ。2009年アメリカ・アカデミー賞で監督賞、作品賞を受賞し、21年ぶりにハリウッド製作以外の受賞となった。しかも、低予算で当初は劇場公開さえ危ぶまれた作品が、脚光を浴びた。まさに、絵に描いたようなサクセスストーリー。不況のハリウッド資本が活力のあるインドを持ち上げたという評価もあるが、映画の圧倒的な魅力を否定することは出来ない。ダニー・ボイル監督は、インドの過酷な現実をリアルに描きつつ、ボリウッド(インド映画)の高揚感を生かしながら、観終わると幸せに包まれる娯楽作にまとめあげた。
★4位「母なる証明」
ポン・ジュノ監督の新作。女子高生殺人事件が起こり、事件の容疑者となった息子と、息子の無実を信じて真犯人を探す母の姿を追ったサスペンス。母親役キム・ヘジャ、息子役ウォンビンの熱演だけでなく、練り込まれたストーリーと鋭利な映像が、ずしりとした手応えを与えてくれる。監督の映画的な悪意と映画の快楽が詰まった作品だ。
★5位「チェンジリング」
クリント・イーストウッド監督、アンジェリーナ・ジョリー主演。クリント・イーストウッド監督では、おそらく「グラントリノ」の方が、高い評価を得ているかもしれないが、私はこちらを選ぶ。
1920年代のロサンゼルスで実際に起きた事件を映画化したものだが、そのあまりにも映画的な展開に驚かされる。本当に実話なのかと疑ってしまうほどだ。この作品がすごいのは、単に警察の腐敗を浮き彫りにするというだけではなく、事件の深々とした謎へと連れて行く点だ。圧倒的な手応えが残る。
★次点「幸せはシャンソニア劇場から」フランス映画の至福
「コーラス」の製作者ジャック・ペランとクリストフ・バラティエ監督が再タッグを組んだ意欲作。1930年代の世界恐慌や世界大戦という歴史を巧みに生かしながら、さまざまな立場の人々を生き生きと描いている。音楽もすばらしい。懐かしい雰囲気を持ったフランス映画。「幸せはシャンソニア劇場から」は、映画らしい映画の面白さが詰まった作品だ。私は、新しい表現を模索する実験的な作品も好きだが、こういった往年の名作の味わいを持った作品に出会うと、別の幸せを感じる。といっても、古くさい作品ではない。第2次世界大戦前が舞台だが、失業者と引きこもりが活躍する現代的な構図を持った作品だ。
★特別賞「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」に感謝!!
このドキュメンタリー作品は、別格。マイケル・ジャクソンのスリリングなステージとあたたかな人柄を示す映像に感謝。2009年6月に急死したマイケル・ジャクソンが、死の数日前まで行われていたコンサート・リハーサルの様子を記録したドキュメンタリー。ことしは、 ニューヨークのワールドトレードセンターのツインタワーのビルの間に設置した細い綱の上をゲリラ的に渡った「マン・オン・ワイヤー」など、優れたドキュメンタリー作品に多く出会えた。構想30年、ジェームズ・マーシュ監督の情熱が生み出した傑作だ。
【邦画】
※ことしは、あまり邦画を観ることができなかった。あくまでも、私が劇場で見た作品のベスト。
★1位「サマーウォーズ」
私は、アニメは、1作品だけにしぼると決めていましたが、ことしは難しかった。傑作アニメが、たくさん、公開された。
★「サマーウォーズ」
田舎の大家族・親戚縁者が「仮想世界OZ」の危機に対して結束して闘う。そして、インターネットでつながった世界中の人たちとも力を合わせて世界を救う。美しい自然の季節感を背景に、一人一人の個性を際立たせながら、群像ドラマをきめ細やかに描き、リアルと仮想世界の人たちが協力して危機を乗り越える物語。手に汗握る闘いの後の、爽快感あふれるラストシーンも見事だった。細田守監督の「サマーウォーズ」は、多くの人に愛され続けることだろう。
以下も捨てがたいアニメ。
「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」
エヴァ・ストーリーが、ここまで破壊されるとは。「序」からは、想像もつかなかった。今回の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』は、ストーリーがTVとは大幅に変わっている。戦闘シーンの迫力も、半端じゃない。使徒の動きも独創的。エヴァが使徒を食うのは見慣れていたが、エヴァが使徒に食われるシーンは衝撃的だった。そして、全体的に熱量が高い。シンジのアスカや綾波レイへの熱い思いが、ほとばしり、奇跡を起こす。私が「天元突破グレンラガン」のファンだからというだけでなく、エヴァにグレンラガンが乗り移ったのでは、と感じた。
劇場版「天元突破グレンラガン」螺巌篇
紅蓮編程度の盛り上がりを期待してはいたが、構成自体を手直しし、さらに素晴らしい盛り上がりを見せてくれた。スタッフの愛情が、びしびしと伝わってきた。仲間で力を合わせて勝ち抜くというコンセプトが生かされ、ハイテンションに次ぐハイテンション。最初と最後をニアの日記や手紙で包み込むことで、穏やかに幕を下ろす。
「劇場版 空の境界/第七章 殺人考察(後)」
原作の小説通り、全7章を7部構成で順次劇場公開するというスタイルを取った「劇場版 空の境界」。2年にわたり高いクオリティが注目され、ついに「第七章 殺人考察(後)」で完結した。7章合計の上映時間は8時間半。アニメ史の金字塔と言えるだろう。
★2位「K-20 怪人二十面相・伝」痛快なアクション大作
江戸川乱歩の怪人二十面相をテーマにした北村想(きたむら・そう)のちょっと屈折した小説の実写化。ただし、設定はかなり変えられている。第2次世界大戦が「回避」され、戦前の制度がそのまま残った1949年の東京が舞台。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』のスタッフが、中心となって制作に携わり、見事なCGで架空の都市風景をみせてくれる。
冒頭の独創的な建築物に満ちた俯瞰シーン、ハイセンスなオープニングタイトルのアニメを見て、ハリウッド作品を超える予感がした。その予想は的中した。アクション中心でストーリーがおざなりのハリウッド作品と違い、物語がしっかりしている。どんでん返しにつぐ、どんでん返し。手に汗握る展開。観終わって、嬉しい気分にさせる痛快なアクション大作だ。
★3位「少年メリケンサック」映画自体がパンクだ
宮藤官九郎(くどう・かんくろう)監督が、「真夜中の弥次さん喜多さん」以来、4年ぶりに完成させた第2作。2作目にして、早くも映画の文法を壊しにかかっている。突っ込みどころ満載のお笑いパンク映画を生み出した。映画自体が、デタラメでへたくそなのが、いかにもパンクだ。
しかし、面白い。むさ苦しいおっさんたちと、可愛い宮崎あおいの対比がいい。宮崎あおいは、田口トモロヲのうまさに負けないおバカぶりを炸裂させていた。ただものではない。
「ニューヨークマラソン」だと思っていた歌詞が、実はとんでもない歌詞であったという「空耳アワー」的なオチも、ばかばかしくていい。
★4位「BALLAD 名もなき恋のうた」アッパレ!アニメ実写化の意気込み
山崎貴(やまざき・たかし)監督が、アニメ映画「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」を原案に、実写化した。野原しんのすけは登場しないが、ストーリーはかなり忠実に再現している携帯電話などの現代機器を巧みにいかしていた点は、評価できる。エンドロールも、とても良くできているのでお見逃しなく。こういう悲しくて楽しいエンドロールをつくれる点でも、山崎監督はすごい。
この作品の公開後、「クレヨンしんちゃん」作者の臼井儀人(うすい・よしと)氏の転落事故死が報じられた。作者の死で「クレヨンしんちゃん」が注目されたことは悲しい。
★5位「なくもんか」
宮藤官九郎(くどう かんくろう)の脚本。水田伸生(みずた のぶお)監督作品。テンポよく、小ネタを繰り出して飽きさせない。 東京下町。ハムカツで人気の「デリカの山ちゃん」の2代目店主・祐太(ゆうた)は、親に捨てられ、弟と生き別れている。貧乏と生き別れの兄弟をテーマにするのは、とてもずるいが、まあ許そう。それにしても、究極のお人よしの主人公の屈折した心情をコミカルに表現できるのは、阿部サダヲしかいないだろう。その意味では、まさに阿部サダヲの映画なのだが、脇役も面白い。
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