2009.11.26

■「パイレーツ・ロック」は、ロックンロールでクールな群像劇

Piratesrock09 リチャード・カーティス監督・脚本作品。イギリスに民放ラジオが存在していなかった1966年。ラジオでは、ポピュラーミュージックの放送時間が制限されていた。そのため、領海外に停泊した船から、合法的にロックを24時間流し続ける「海賊ラジオ局」が存在し、熱狂的な支持を集めていた。その船で暮らす魅力的なDJらを描いていく。政府は、「国の風紀を乱す」ラジオ局をなんとか取り締まろうとする。実話をもとにした、痛快な作品。楽しくて反骨精神に満ちている。まさに、ロックンロールでクールな群像劇だ。登場人物のキャラも、しっかり立っている。
 軽妙な船長役のビル・ナイはじめ、フィリップ・シーモア・ホフマンら、やんちゃな中年DJたちが、最高にかっこいい。青春している。反抗的で下品で楽しい日々を送っている。しかし、物語はタイタニックばりの展開を見せる。それは、放送の取り締まりが本格化する時代を象徴している。それでも、ラストは、すこぶる明るい。懐かしい曲があふれた傑作だか、1960年代を回顧するというよりも、未来を指し示すような作品。熱く、そして長く語り継がれるに違いない。
 最後の踊りまで、とにかくかっこ良かったビル・ナイは、 リチャード監督への信頼を熱く語り、実際の海賊放送局についての思い出を語っている。「「ラジオ・ルクセンブルク、ラジオ・キャロラインやラジオ・ロンドン。とくにラジオ・キャロラインがメインだった。非常に多くの視聴者が、毎日ラジオのダイヤルを合わせていた。やがて、それらの放送局は違法となってしまうけれど、それはさらにクールなことだった。政府が封鎖しようとするなんて、何よりクールなことだ」
 幸せな気分で見終わって、サントラが買いたくなったのは、言うまでもない。
★パイレーツ・ロック オリジナル・サウンドトラック
ディスク:1
1. ステイ・ウィズ・ミー
2. オール・オブ・ザ・ナイト
3. エレノア
4. ジュディのごまかし
5. ダンシング・イン・ザ・ストリート
6. 素敵じゃないか
7. ウー・ベイビー・ベイビー
8. ジス・ガイ
9. クリムゾン&クローヴァー
10. ハイ・ホー・シルヴァー・ライニング
11. 恋のマジック・アイ
12. ウィズ・ア・ガール・ライク・ユー
13. あの娘のレター
14. アイム・アライヴ
15. イエスタデイ・マン
16. アイヴ・ビーン・ア・バッド・バッド・ボーイ
17. サイレンス・イズ・ゴールデン
18. この世の果てまで
ディスク:2
1. フライデー・オン・マイ・マインド
2. マイ・ジェネレイション
3. アイ・フィール・フリー
4. 風の中のマリー
5. 青い影
6. ジーズ・アームズ・オブ・マイン
7. クレオズ・ムード
8. 恋にご用心
9. シーズ・ラザー・ビー・ウィズ・ミー
10. 98.6
11. サニー・アフタヌーン
12. 父と子
13. サテンの夜
14. この胸のときめきを
15. ステイ・ウィズ・ミー
16. ハング・オン・スルーピー
17. ジス・オールド・ハート・オブ・マイン
18. レッツ・ダンス

[キャスト]
フィリップ・シーモア・ホフマン:ザ・カウント
トム・スターリッジ:カール
ビル・ナイ:クエンティン
リス・エヴァンス:ギャヴィン
ニック・フロスト:デイヴ
ウィル・アダムズデイル:ニュース・ジョン
トム・ブルック:シック・ケヴィン
リス・ダービー:アンガス
キャサリン・パーキンソン:フェリシティ
クリス・オダウド:サイモン
アイク・ハミルトン:ハロルド
ケネス・ブラナー:ドルマンディ
シネイド・マシューズ:ミスC
トム・ウィズダム:マーク
ジェマ・アータートン:デジリー
ジャック・ダヴェンポート:トゥワット
ラルフ・ブラウン:ボブ
タルラ・ライリー:マリアン
ジャニュアリー・ジョーンズ:エレノア
アマンダ・フェアバンク=ハインズ
フランチェスカ・ロングリッグ
オリヴィア・ルウェリン
エマ・トンプソン:シャーロット

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.11.23

■「笑う警官」笑われる春樹と言われているが

Waraukeikan2009
 佐々木譲(ささき・じょう)「道警シリーズ」第1作の同名小説を、角川春樹監督が映画化した。12年ぶりの監督作品。製作・脚本も手がけた。北海道警を舞台に、婦警殺害の真犯人を探す警察官を描きつつ、道警の組織的な腐敗を正面からえぐる社会派作品のはずだが、角川春樹の作家性が遺憾なく発揮され、奇妙な映画になっている。その下手な脚本と演出が、笑われているものの、珍品としての価値は高い。さらに角川監督自らが、かなり重要な役でカメオ出演し、自ら作品を台無しにしている。
 北海道警察による組織ぐるみの裏金疑惑が浮上し、現職警官が証言台に立つ道議会「百条委員会」が開かれる予定の前日、元ミス道警の変死体が発見される。不自然な速さでキャリア達が現場に駆けつけ、死体発見から5時間後には、元交際相手の津久井卓巡査が容疑者と断定される。さらに不自然な射殺命令が下される。津久井巡査が証言台に立つ予定だったことが判明し、佐伯宏一警部補は仲間を集めて真相を探り始める。
 状況や心情を全部台詞で説明するという下手な演出の王道を突き進みつつ、不要なギャグを盛り込む。緊迫のドラマが、おちゃらけになる。警官たちが、だれも警官に見えないという離れ業の演出。どんでん返しの連続を決めようとして、作品自体がひっくり返る大胆な展開。いつもムーディなジャズが流れるが、作品のテイストと噛み合ない。ラストは、死者も交えて敵味方がバーでジャズを楽しむという幻想的な大団円。角川春樹監督の真骨頂だ。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.11.22

■「なくもんか」笑うもんか

Nakumonnka09
 宮藤官九郎(くどう かんくろう)の脚本。水田伸生(みずた のぶお)監督作品。テンポよく、小ネタを繰り出して飽きさせない。笑うもんかと思っていても、笑わされてしまう。くやしい。
 東京下町。ハムカツで人気の「デリカの山ちゃん」の2代目店主・祐太(ゆうた)は、親に捨てられ、弟と生き別れている。貧乏と生き別れの兄弟をテーマにするのは、とてもずるいが、まあ許そう。それにしても、究極のお人よしの主人公の屈折した心情をコミカルに表現できるのは、阿部サダヲしかいないだろう。その意味では、まさに阿部サダヲの映画なのだが、脇役も面白い。特に、祐太の母親役の鈴木砂羽(すずき さわ)。とてもエネルギッシュな母親だが、通行人を楳図かずおと間違えて脇見運転し交通事故死してしまう。認知症のおばあちゃん役のいしだあゆみも、なかなかの芸を見せる。祐太の妻・徹子役の竹内結子は、確かにうまいが、テンポに乗り切れていなかった。
  作品は、どたばたしつつも、家族愛、兄弟愛、そしてエコロジーと、丸く治まっている。その点が、宮藤官九郎の作品としては、やや物足りない。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

■「イングロリアス・バスターズ」反ナチ、おちゃらけ映画

Inglo0911
 家族を虐殺されたユダヤ人のショシャナ・ドレフュス(メラニー・ロラン)と、アルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)率いる連合軍の極秘部隊イングロリアス・バスターズが、ナチスを血祭りに上げる「おちゃらけ映画」。エンツォ・G・カステラッリ監督の同名マカロニアクション映画にインスパイアされたものだ。
 「キル・ビル」や「デス・プルーフ in グラインドハウス」といった、ぶっ飛んだ作品に比べると、お遊び度は、やや低いが1990年代の「レザボア・ドッグス」「パルプ・フィクション」に近い構成だ。映画館で、映画フィルムを燃やしてヒトラーらナチスを焼き殺すというアイデアは、ありきたりと言えばありきたりだろう。ショシャナとツォラーの関係もロミオとジュリエットの屈折した最後としては、力がない。終わり方も監督らしくなかったように思う。
 ただ、俳優たちが、思わぬ役を演じていたのは、楽しかった。ドイツ女優でレジスタンス役のダイアン・クルーガー、ヨーゼフ・ゲッベルスの通訳役ジュリー・ドレフュスが、なかなかの演技を見せる。ユダヤ・ハンターのランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)の軽妙さは、ナチ狩りのレイン中尉(ブラッド・ピット)の軽妙さを上回っていた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.11.21

■「母なる証明」映画的な毒が美味しい

Hahanaru09a
 ポン・ジュノ監督の新作。女子高生殺人事件が起こり、事件の容疑者となった息子と、息子の無実を信じて真犯人を探す母の姿を追ったサスペンス。予告編を見たときは、良くある「子どものために必死になる母親もの」かと思った。
 母親役は、「韓国の母」キム・ヘジャ。23年間にわたり出演し続けた長寿ドラマ「田園日記」で、農村で暮らす我慢強くも温かい母親を演じた。タイプは違うかもしれないが、「肝っ玉かあさん」の京塚昌子に近いのだろう(京塚昌子が亡くなって15年になる)。キム・ヘジャは、国民的女優だが、映画出演は3作と少ない。その理由を「正直に言うと、演じたいと思う新たな役がなかった。私のところにくる役は、どれも古臭いものだった。しかし、『母なる証明』はまったく違っていた。ポン監督は、自分がステレオタイプに対してどれだけ挑戦したいと思っているかを語ってくれた」と説明する。映画の最初で、突然草原で踊りだすシーンには驚かされたが、本当の驚きは後半にやってくる。よくある母親像を粉々に打ち砕く。
 人気イケメン・スターのウォンビンが兵役後初めて、実に5年ぶりに映画に復帰した作品でもある。「小鹿のような目をした青年」トジュンを演じている。おっとりしていて純真無垢(むく)な性格に見えて、突然恐ろしい言葉を吐き、暴力的になる。ストーリーは、スターとしてのウォンビン像を2度打ち砕くことになる。韓国の観客にとっては、驚きの連続だったはずだ。
 二人の俳優の熱演だけでなく、練り込まれたストーリーと鋭利な映像が、ずしりとした手応えを与えてくれる。監督の悪意と映画の快楽が詰まった作品だ。映画的な毒が美味しい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

■「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」に感謝!!

Thisisit2009
 こんなかたちで、マイケル・ジャクソンのスリリングなステージとあたたかな人柄を示す映像を見たくなかった。エンドロールが流れる中、感動に浸りながら、ずっとそう思っていた。
 2009年6月に急死したマイケル・ジャクソンが、死の数日前まで行われていたコンサート・リハーサルの様子を記録したドキュメンタリー。マイケル・ジャクソンは2009年夏にロンドンのO2アリーナでのコンサートを計画していた。そして、そのためのリハーサルを続けていた。ロンドン公演のクリエーティブ・パートナー・ケニー・オルテガが、100時間以上の映像を編集して、舞台裏をみせてくれた。さまざまなアイデアを出し、完璧を求めるマイケル・ジャクソンの姿勢が伝わってくる。
 そして、想像をはるかに上回るマイケル・ジャクソンのダンスのキレの良さ。リハーサルとは思えない力の入れように驚き、そのシャープな動きに酔った。あまりにもすばらしいので、別人ではないかという噂が流れたほどだ。
 さらに、舞台で披露されるハズだった「スムーズ・クリミナル」のモノクロ映像を観ることができたことは、予想外の嬉しさ。「スリラー」の3Dも、すごくハイクオリティで、全編を見てみたくなる。
 最後に、地球環境へのマイケル・ジャクソンの関心の高さ、スタッフとの深い絆を伝えて、ドキュメンタリーは終わる。エンドロールが終わるまで席を立たないように。
 マイケル・ジャクソンの死後、この作品の情報が流れ、最初はあざとい商売かと思ったが、今は感謝の気持ちでいっぱいだ。ありがとう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.10.22

■「ココ・アヴァン・シャネル」ブランドファッション誕生の秘密

Coco2009
 ファッションブランドの創始者ココ・シャネルの、孤児院で過ごした幼少時代からファッション界で成功するまでの伝記映画。貴族の装飾の多いファッションを批判し、シンプルでエレガントなファッションが誕生していく過程が、ラブストーリーと重なって見事に描かれている。監督は『ドライ・クリーニング』のアンヌ・フォンテーヌ。ココ・シャネル役は『アメリ』のオドレイ・トトゥ。自立していく女性をとてもしっくりと演じている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.10.21

■「幸せはシャンソニア劇場から」フランス映画の至福

Syansonia09
 懐かしい雰囲気を持ったフランス映画。「幸せはシャンソニア劇場から」は、映画らしい映画の面白さが詰まった作品だ。私は、新しい表現を模索する実験的な作品も好きだが、こういった往年の名作の味わいを持った作品に出会うと、別の幸せを感じる。といっても、古くさい作品ではない。第2次世界大戦前が舞台だが、失業者と引きこもりが活躍する現代的な構図を持った作品だ。
 1936年、パリのミュージックホール・シャンソニア劇場は、経営不振のため閉鎖される。30年以上劇場で幕引きをしてきたピゴワルは妻に逃げられ、息子のジョジョとも別れてしまう。失意の日々を送るピゴワルは、芸人仲間と一緒に、再び営業を始めようと劇場を占拠する。そこに、歌手志望の美しい娘・ドゥースがやって来る。彼女の美声がシャンソニア劇場を救う。そして、この後、あっと驚く展開が待っている。
  「コーラス」の製作者ジャック・ペランとクリストフ・バラティエ監督が再タッグを組んだ意欲作。1930年代の世界恐慌や世界大戦という歴史を巧みに生かしながら、さまざまな立場の人々を生き生きと描いている。音楽もすばらしい。ドゥース役ノラ・アルネゼデールの歌声は、幸せな気持ちにする力がある。エンドタイトルの曲も、往年の懐かしい雰囲気を醸し出している。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009.10.12

■「あの日、欲望の大地で」ジェニファー・ローレンスの存在感

334096_005
 「21グラム」「バベル」などの脚本家ギジェルモ・アリアガが、監督として長編デビューした。複数のストーリーが交錯する脚本を書くのがギジェルモの特徴だが、この作品は、「21グラム」「バベル」に比べ分かりやすい構成になっている。
 有能なキャリアウーマンに見える女性の自傷行為、草原の中で炎上するトレーラーハウス。最初から、衝撃的なシーンが登場し、どうなるのかと引き込まれる。いっけんあざといとも思われるが、しかしその意味は、後で十分納得できる展開につながる。刺激的だが、心に迫るドラマだ。シャーリーズ・セロンとキム・ベイシンガーが、深い傷を持つ女性を熱演している。出番は、やや少ないものの、キム・ベイシンガーの屈折に満ちた演技が光る。しかし、この二人を上回る存在感を見せたのは、撮影当時17歳のジェニファー・ローレンス。ギジェルモ・アリアガ監督は「メリル・ストリープの再来かと思った」と絶賛している。本作の演技が評価され、第65回ベネチア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人賞)を受賞した。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2009.09.23

■「ハリー・ポッターと謎のプリンス」ハリーがだんだん弱くなる

Haripota09a
 デヴィッド・イェーツ監督。「ハリー・ポッター」映画シリーズ6作目。次回は最終作「ハリー・ポッターと死の秘宝』」だが、2010年11月と2011年7月に2部作として公開される予定。クライマックスに向けた、ある意味中途半端な位置にあるが、映像表現に作家性が感じられる。だから、嫌いではない。
 2001年の「ハリー・ポッターと賢者の石」から8年。ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンの3人も、ずいぶんと成長した。演技も身体も。
 回を追うごとにストーリーは過酷に、そして暗くなっていくが、今回は思春期の揺れ動く恋愛ドラマが盛り込まれ、コミカルな部分も多い。それにしても、ハリーがだんだん弱くなっているように感じるのは、私だけだろうか。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧