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2015.06.27

2015年6月の劇場映画評

「ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~」は、テイト・テイラー監督作品。ミック・ジャガーが製作を手がけました。伝説のソウルミュージシャン、ジェームス・ブラウンの半生を描いた映画です。

貧しい家に生まれ育ったジェームス・ブラウンは、両親に捨てられ、叔母に引き取られて、孤独な少年時代を送ります。軽い盗みで刑務所に入ったジェームスは、ゴスペルグループのボビー・バードと出会います。ボビーは、ジェームスの才能を見抜き、彼の保証人となります。

釈放されたジェームスとボビーはバンドを結成。ジェームスのたぐいまれな才能が開花します。ただ、自分勝手な振る舞いや派手な女性関係によって、仲間と対立し、ついには親友ボビーも彼のもとを去ってしまいます。

ソウルだけでなく、あらゆるジャンルの音楽に影響を及ぼしたジェームス・ブラウンは、音楽性だけでなく音楽興業の面でも先駆的でした。

映画は、凝った作りで、時間構成が入り組んでいたり、時折カメラ目線で語りかけたりします。ただ、そういう工夫がなくても、天才過ぎる音楽性、迫力満点のコンサート、想像を上回る逸話だけで、お腹いっぱいになるはずです。ジェームス・ブラウンを演じたチャドウィック・ボーズマンの熱演には、驚きました。

映画「チャッピー」の監督と脚本はニール・ブロムカンプ。2004年にブロムカンプ自身が製作したオリジナルのSF短編を長編映画化したものです。設定は2016年。「第9地区」と同じ南アフリカ・ヨハネスブルグを舞台にしています。成長する人工知能を持つ警察ロボットとギャングたちによる、どたばたコメディです。

ロボット開発者のディオンは、自ら考える人工知能を開発しています。ストリートギャングに持ち去られたロボットは、人工知能をインストールされます。チャッピーと名付けられて、ギャングの生き方を学び、成長していきます。

ディオンのライバルである科学者ヴィンセントは、この事実を突き止め、人工知能の危険性を強調し、チャッピーは追い詰められていきます。

ギャングに育てられる人工知能ロボットというアイデアは面白いですが、ストーリーが安直で、何よりも人工知能のイメージが、あまりに古くさいです。人工知能は、いま大きな変革が起きている分野です。社会を根底から変えていく存在になり始めています。人工知能をインターネットで検索すると、そのことが分かります。


「あの日の声を探して」は、フランス・グルジア合作映画です。第84回アカデミー賞受賞作「アーティスト」のミシェル・アザナビシウス監督が、戦争で両親を殺され、声を失った少年が懸命に生きる姿を描いた作品です。ウイットに富んだ「アーティスト」とは対照的な、かなり重いドラマです。

ナチスによって収容所に送られ、母親と生き別れた少年をアメリカ兵が助けるフレッド・ジンネマン監督の名作「山河遥かなり」(1947年)をもとに、舞台をロシアに侵攻された1999年のチェチェンに置き換えています。問題を普遍的にとらえようという監督の狙いは明かです。グルジアオールロケで、全編を手持ちカメラで撮影し、リアリティを追求しています。

両親を殺された9歳の少年ハジは、赤ん坊の弟を抱いて逃げますが、見知らぬ人の家の前に弟を置き、ひとり放浪します。フランスから調査にきたEU職員のキャロルと偶然に出会います。戦争を前にして無力さをかみしめる日々を送っていたキャロルは、ハジだけでも守ろうと決意します。

主人公・ハジ役のアブドゥル・カリム・ママツイエフは、オーディションで選ばれた演技未経験の少年ですが、とてもリアリティがあります。一方、ごく普通の青年がロシア兵として殺人兵器に変えられていく過程もリアルに描かれます。戦争を多面的にとらえようとしています。

「パレードへようこそ」は、イギリス映画。マシュー・ウォーチャス監督。
1984年サッチャー政権下のイギリスが舞台です。実話をもとにしています。炭坑閉鎖案に抗議して闘う炭坑労働者のストライキに共鳴し、支援を始めた同性愛者のグループは、多額の募金を集めます。しかし炭坑組合に寄付を申し出ても、ことごとく断られていました。ちょっとした勘違いから受け入れる炭坑組合が現れ、若き同性愛者グループはウェールズの炭坑を訪れます。炭坑の町は、同性愛者グループと交流しますが、支援を巡り対立も起きます。

炭坑閉鎖によって町が破壊されるかもしれないという深刻な状況の中でも、炭坑組合の人たちは快活です。前向きなおばさんたちのパワーが印象的でした。同性愛者グループも若さを発散させます。コメディのように笑わせて、最後に泣かせる佳作です。

撮影は実話の舞台となった町で行われました。全く異なる世界に生きる者どうしが奇跡的に出会い、深く交流した事実。感動的です。「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」で、イギリスの同性愛者差別の深刻さを知っていただけに、感動はさらに大きくなりました。

サッチャー政権下で合理化と闘うイギリスの労働者のしたたかな姿は、数々の名作映画を生み出していますが、この作品もその一つです。


河瀬直美監督の新作「あん」は、ドリアン助川の小説の映画化です。

桜の咲く公園のそばのどら焼き屋で、暗い過去を背負う千太郎は、毎日どら焼きを焼いています。ある日、徳江という手の不自由なおばあさんが現れ、働かせてほしいと頼みます。渡された手作りのあんを食べた彼はその美味しさに驚き、よく店を訪れる女子中学生ワカナのアドバイスで、雇うことにします。徳江は、50年間、あんを作り続けてきたと話します。

どら焼きの美味しさが評判になり、店は繁盛します。しかし徳江がハンセン病であったという噂が広まり、客足は途絶えます。それを察した徳江はひっそりと店を辞めます。千太郎はワカナとともに、隔離施設を訪ね、徳江と再会します。

ドキュメンタリーのように、派手な作為を感じさせない映像ですが、じんわりとしみ込んでくる作品です。

身近な自然と心を通わせ、あずきと対話しながら美味しい「あん」を作り上げる徳江。樹木希林は、自然体に見えて人間を超越したところのある人物を絶妙に演じています。女子中学生ワカナを演じたのは、樹木希林の孫の内田伽羅。まだ原石ながら、確かな存在感がありました。千太郎役の永瀬正敏は、相変わらず手堅い演技をしています。

「駆込み女と駆出し男」。なかなかうまい題名です。
原田眞人監督が、井上ひさしが晩年に11年をかけて執筆した時代小説「東慶寺花だより」を原案として、初めて時代劇に取り組みました。テンポがよく、コミカルで、それでいて厚みのある作品に仕上がっています。

江戸時代、幕府公認の縁切寺として名高い東慶寺には、複雑な事情を抱えた女たちが離縁を求め駆け込みました。女たちの聞き取り調査を行う宿に居候する医者見習いで戯作者志望の信次郎は、女たちの再出発を助けようと奮闘します。信次郎役の大泉洋は、まさに、はまり役でした。寺に駆け込むヒロイン役は戸田恵梨香、満島ひかり。

戸田恵梨香は、近年めきめき成長している女優です。
満島ひかりの存在感溢れる演技と互角に対応しています。なかなか見応えがありました。
宝塚出身の陽月華は、縁切り寺の院代の役で、凜とした演技が光りました。

原作では男役の離婚調停人・源兵衛を演じたのは、原田監督の希望でオファーされた樹木希林です。軽妙に演じています。撮影所で一緒になった俳優の橋爪功に「あんた、男の役もやるようになったのか。僕らの役を取らないでくれよ」と、言われたらしいです。

井上ひさしの小説では曖昧な時代背景を、天保の改革の真っただ中の天保十二年(1841)に設定しています。抑圧的な政策が相次いだ時代です。

原田監督は「政府が強権発動したりするという意味で、今は天保の改革の頃と似ている。本作では、そのような権力と戦う一般の人たちの心意気を描きたかった。そうした状況の中で虐げられた者たちが連帯し、それぞれが幸せをつかんでいくという話にしたかった」と話しています。骨太な作品の多い原田監督らしい姿勢です。
ぜひ続編を制作してほしいと思います。

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