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2015.05.23

「セッション」

28歳のデイミアン・チャゼル監督は、長編2作目で「セッション」を作り上げました。2014年の第30回サンダンス映画祭でグランプリと観客賞を受賞しました。

プロのジャズドラマーを目指して名門の音楽学校に入ったニーマンは、伝説の教師と言われるフレッチャーの指導を受けます。フレッチャーはニーマンを口汚くののしり、レッスンは壮絶なシゴキになっていきます。J・K・シモンズがフレッチャーを怪演しています。戦慄に果てに笑いが訪れるという演技の高みに達しています。

フレッチャーの理不尽なシゴキが天才をつくるという信念は間違いです。偶然1人の天才が誕生するかもしれませんが、100人の天才の芽をつぶします。さらに音楽を深く愛しているかに見えたフレッチャーが、コンサートで音楽を使って復讐しようとする場面では、その卑劣さに唖然とします。音楽関係者が、憤慨するのは分かります。私も、あまりのことに怒りを覚えました。

しかし、そんな卑劣さ動機によって始まった演奏シーンは、とんでもない名演奏を生み出します。フレッチャーとニーマンは、その高みを共有します。芸術の魔法です。この作品は、そんな奇跡的な場面を描くために生まれました。

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「神々のたそがれ」

「神々のたそがれ」は、ロシアの巨匠アレクセイ・ゲルマン監督の遺作です。アンドレイ・タルコフスキー監督作「ストーカー」の原作者として有名なストルガツキー兄弟のSF小説「神様はつらい」を15年の歳月を費やして映画化しました。実際には、完成間近で監督が死去し、脚本家の妻のスヴェトラーナ・カルマリータと息子で映画監督のアレクセイ・ゲルマンJr.が完成させました。

ゲルマン監督は、ストルガツキー兄弟が1964年に発表した「神様はつらい」刊行直後に映画化を考え、1968年には脚本第一稿を書き上げていました。しかし同年8月に起きた「チェコ事件」で企画を中断。約35年後の2000年に撮影に着手し、2006年にすべての素材を撮り終え、編集に時間をかけていました。

地球よりも800年発展が遅れた惑星を調査するため、30人の学者たちが派遣されます。惑星では文明の発展を拒むように圧政や虐殺、知識人の抹殺が繰り返されています。地球の学者たちは傍観していましたが、ドン・ルマータは行動に出ます。

ゲルマン監督は、猥雑の限りを尽くすように映像を汚物で満たします。177分の映像を見ると、哲学者ウンベルト・エーコが「アレクセイ・ゲルマンに比べればタランティーノの映画は、ただのディズニー映画だ」と言った意味が分かります。
浅田彰は「たんに見るべき映画ではなく、全感覚で体験すべき映画なのだ。ラブレーやブリューゲルの世界に身体ごと放り込まれたかのように」と強調しています。

邦題の「神々のたそがれ」は、ワーグナーからの連想でしょうが、原題は「Hard to Be a God」と単数なので「神は疲れる」で良かったと思います。この地球にも宇宙人が来ていて、血なまぐさい現代に疲れているかもしれません。この映画を見終わると観客もかなり疲れます。

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「海にかかる霧」

「海にかかる霧」は、「殺人の追憶」の脚本を担当したシム・ソンボが監督デビューした作品です。「殺人の追憶」は、実際の未解決殺人事件をテーマした衝撃的な作品でしたが、この映画も2001年に実際に起こった「テチャン号事件」をもとにしています。舞台劇「海霧(ヘム)」を映画化しました。あっと驚く、すさまじい展開を見せます。

漁船チョンジン号の船長チョルジュは、中国人の密航者を乗船させるという違法な仕事に手を染めます。深刻な不況が背景にあります。密航船と合流して、密航者を陸まで運ぶという簡単な仕事のはずでした。しかし、不運が重なり極限的な状態に追い詰められます。

極限状態の中で、人間はどのように変貌するのか。欲望と狂気が露わになります。映像の緊迫感は、尋常ではありません。俳優の熱演とカメラワークの巧みさが、壮絶な世界を生み出します。見終わって、しばし放心状態になります。

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「妻への家路」

「妻への家路」は、チャン・イーモウ監督の記念すべき20作目です。女優コン・リーを8年ぶりに迎え、文化大革命で引き裂かれた夫婦の絆を描いた物語です。1977年に、文化大革命が終わり、収容所から解放されたルー・イエンチーは、妻のフォン・ワンイーと再会しますが、ワンイーは心労から記憶障害となり、イエンチーを夫だと認識することができなくなっています。イエンチーは、妻の記憶を戻そうと、努力を続けます。

文化大革命の理不尽さを描いた、痛烈な体制批判の作品ですが、老練な監督は、巧みな演出で作品を仕上げます。夫が受けた拷問は描かれません。妻が受けた暴行も描かれません。派手な演出はしていませんが、脱走して逢いにきた父を娘が党に密告する場面は、胸に迫ります。

中国では、若い人向けの娯楽的な作品が多いそうですが、チャン・イーモウ監督はそんな現状の中で歴史を夫婦の絆というかたちで描きます。激動の時代を生き抜いてきた監督の思いが心にしみます。

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「寄生獣 完結編」

山崎貴監督の「寄生獣 完結編」は、岩明均の名作コミック「寄生獣」を実写映画化した2部作の後編です。後編は、かなり急ぎ足です。パラサイトに支配された市役所への奇襲作戦など、全体に唐突感のある展開になります。そんな中で、田宮良子役の深津絵里の深みのある落ち着いた演技が光ります。前編から気になっていたミギ-のぷよぷよ感には、最後まで慣れませんでした。

前編を含め、かなり思い切った改変が行われています。しかし、それは納得のいく改変でした。ただ、最後の最後で致命的な過ちを犯しました。原作では、最強のパラサイト・後藤との対決の場面で、廃棄物のゴミの中にあった有害化学物質が大きな役割を果たします。映画では、有害化学物質が放射性ガレキの放射性物質に変えられています。放射性物質が、今風だと判断したのでしょうか。しかし放射性物質だと、展開に無理があり、辻褄も合いません。作品全体を台無しにしてしまいました。

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「百日紅 ~Miss HOKUSAI~」

「百日紅 ~Miss HOKUSAI~」。2005年に46歳で亡くなった漫画家・杉浦日向子が20代後半に描いた名作「百日紅」を、原恵一監督がアニメ化しました。葛飾北斎とその娘、お栄。そして居候の善次郎の3人を中心に描いています。

原監督の作品への熱い思いが込められた作品です。「天才ですね。僕には絶対に超えられない存在です。20代後半のころに杉浦作品と出合ったのですが、その後の僕の作品には杉浦さんからの影響が強く出ていると思います」と語っているほどの大ファンです。そのことによってアニメならではの奔放さが少ないと思いました。天才を前にして、慎重になりすぎ、堅さを感じます。

ただ、作品の冒頭でロックが流れるシーンには、感心しました。確かに、葛飾北斎とお栄にはロックが似合います。北斎は、非常に魅力的な画家です。これまでも、様々な映画が作られてきました。日本の画家には、魅力的な人物が多いです。歌川国芳 伊藤若冲などの映画も観てみたいです。

杉浦日向子の作品は、「合葬」の実写映画化が今秋公開予定です。「合葬」は、幕府の解体に反対し、最後まで戦った彰義隊を題材にした名作です。

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