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2013.02.22

■「ジャンゴ 繋がれざる者」

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013のオープニング作品「ジャンゴ 繋がれざる者」は、タランティーノ監督らしい奔放さと同時に堂々とした風格を感じさせる165分の大作でした。震えるほどカッコいい作品です。「繋がれざる者」は「Unchained」。奴隷ではなく、自由人という意味です。

南北戦争直前の1858年を舞台に、元歯科医で賞金稼ぎのドイツ人シュルツが黒人奴隷ジャンゴに自由を与え、二人で賞金稼ぎをしていくというストーリー。ジャンゴは妻ブルームヒルダの行方を追い居場所を見つけると、取り戻すための作戦を実行します。

タランティーノ監督は、「アメリカのウエスタン作品は、極端に奴隷問題を避けて描いてきた作品が多かった。誰もしっかりと、この問題を見つめていないと思う」と映画化の意図を説明しています。ウエスタンという娯楽作品に奴隷問題を持ち込んだ挑戦的な作品です。

黒人と白人を単純に分けるのではなく、複雑な人間関係を描きながら、すっきりと仕上がっています。脚本のうまさです。血みどろの銃撃シーン、派手な爆発シーンだけでなく、陰影を生かした端正な美しさに満ちた場面も描かれ、監督としての幅の広がりを感じます。

批評家は、「ニガー」という差別単語を多く使っていることを非難しました。スパイク・リー監督は「この映画は私の先祖に対して失礼だ。アメリカの奴隷制はセルジオ・レオーネのマカロニ・ウエスタンではない。ホロコーストだ」と批判しています。

差別を嫌う元歯科医の賞金稼ぎシュルツを軽妙に演じているのは、クリストフ・ワルツ。「イングロリアス・バスターズ」に続いてのアカデミー賞助演男優賞受賞が期待されています。たしかにうまいです。あっという間に、その場の雰囲気をつかんでしまいます。

残忍な領主カルビン・キャンディを演じているのは、レオナルド・ディカプリオ。脚本を読んで、ディカプリオ自ら希望した役です。初めての悪役。タランティーノ監督とも初タッグ。これまでに観てきたディカプリオの中で一番うまさを感じました。

クリストフ・ワルツやディカプリオの熱演の陰にかくれてしまいましたが、キャンディに雇われている、こうかつで陰険な黒人役を演じたサミュエル・L・ジャクソンが、なかなかいい味を出していました。タランティーノ監督自身も重要な役で出ています。

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2013.02.17

■映画「脳男」人間は変わり得るのかというテーマをキリキリと深めています

瀧本智行(たきもと・ともゆき)監督の「脳男」は、日本テレビ放送網開局60周年・日活創立100周年記念作品。冒頭のバス爆破直後のシーンが不自然すぎ、その後の展開も大袈裟過ぎるので、豪華キャストによるB級映画として楽しむしかないかなと思って観ていました。

しかし、生田斗真演じる鈴木一郎が、緑川紀子の乗っている車のガラスを素手でなぐって割るシーン以降は、スリリングな展開を見せます。うまくまとめられてはいないものの、人間は変わり得るのかというテーマをキリキリと深めています。共感はできないけれど体感できる映画です。

深いトラウマを抱える精神科医役の松雪泰子が、実質的な主役だと思います。彼女の信念が崩れていく過程と鈴木一郎の謎が明らかになる過程がクロスします。絶望的なようで、その絶望自体がかすかな希望かもしれないと思わせる見事な結末でした。

生田斗真は、感情の無い主人公を演じるために、2012年1月から役作りのために半年かけ、格闘技の稽古、身体作りのための食事制限やトレーニング、引きこもり生活も行なったことを、2013年1月17日に行われた完成披露試写会で明らかにしました。気迫は伝わってきます。

二階堂ふみの大げさにも見える狂気の演技は、評価が分かれるでしょう。しかし、突き抜けた表現も感じました。鬼気迫るものがあります。あまりにも過酷な撮影環境に、監督に殺意を持ったと話していたのは、あながち嘘ではないのかもしれません。

「ヒミズ」で2011年ベネチア国際映画祭最優秀新人俳優賞をW受賞した染谷将太(そめたに・ しょうた)と二階堂ふみは、「悪の教典」に続いて今回も共演。しかし、ふたりとも猟奇殺人者にキャスティングした制作スタッフの悪意は、ちょっと鳥肌ものです。

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2013.02.10

■「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」

ヤン・マーテルの2001年の小説『パイの物語』を原作とした映画「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」は、アン・リー監督初の3D作品です。リアルさ、そして幻想的な映像美は、目を見張るものがあります。「アバター」のキャメロン監督が絶賛しています。

2003年にインド出身のM・ナイト・シャマランを監督と発表しましたが頓挫。2005年3月、新監督としてアルフォンソ・キュアロンとの協議が始まりましたが、同年10月にはジャン=ピエール・ジュネを監督とする方向で動きます。しかし、2009年2月にアン・リー監督に話がまわってきます。

インドで動物園を経営していた家族が動物とともにカナダへの移住を決め、日本船で太平洋を北上しますが、海難事故で16歳の少年パイが唯一の生存者となります。彼は、ライフボートにオランウータン、ハイエナ、シマウマ、ベンガルトラと残されます。壮大なドラマが始まります。

パイ役の俳優には、新人のスラジュ・シャルマを選びました。素朴な少年が極限状態の中でたくましく成長していく姿を演じました。ガールフレンド役も新人で、実際にインド伝統舞踏の学校に通う生徒です。動物たちや大自然は、ほとんどがCGです。驚異的にリアルです。

CG制作は、アメリカのリズム&ヒューズ・スタジオ(R&H)。同社が手掛けた「ナルニア国物語」を見て、リー監督が発注しました。ナルニアのライオンよりリアルにしたいと依頼したそうです。本当に見事なCGです。同社は新しいVFXセンターを台湾に設立することを2012年末に発表しました。

ハリウッドでの撮影をできるだけ避けて、ロケの7割は、監督の故郷である台湾で行われました。動物園のほか、古い飛行場に世界最大級の撮影用プールを設置して海の撮影に使われました。手つかずのベンガルボダイジュ林が残されている公園も巧みに活用しています。

壮大な物語ですが、ラストには意外なオチが待っています。ベンガルトラが、なぜ「リチャード・パーカー」と呼ばれていたのか。エドガー・アラン・ポーの小説「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」と1884年の「ミニョネット号事件」につながっています。

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2013.02.03

■TVアニメ「琴浦さん」シリアスとギャグの落差が魅力です

TVアニメ「琴浦さん」を見続けています。ほのぼの系のコミカルアニメかと思っていましたが、第1話で、周りの人たちを不幸にする人の心が読める少女・琴浦春香の苦悩を正面から描き、後半でそんな彼女を受け止める真鍋義久との出会いを描きます。シリアスとギャグの落差が魅力です。

第1話が、完成度が高かったので、第2話には正直期待していませんでしたが、ESP研究会の御舟百合子や室戸大智などユニークなメンバーが増え、物語の幅も思わぬ方向に広がり、なんと第1話以上に泣かされました。

第3話、第4話も、毎回きっちりと泣けるシーンを盛り込んでいます。シリアスとギャグの振り幅が非常に大きいのですが、それが妙にリアルでこの作品の面白さにつながっています。意外な名作アニメに出会えました。

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■TVアニメ「まおゆう魔王勇者」

TVアニメ「まおゆう魔王勇者」。2ちゃんねるに投稿された即興小説が書籍化された作品のアニメ化という珍しいアニメです。監督は、同じく経済アニメの側面を持つ「狼と香辛料」の高橋丈夫監督。魔王の声優・小清水亜美(ことみず・あみ)は、「狼と香辛料」の狼の耳と尻尾を持つ少女・ホロ役を担当していました。

人間と魔族が15年間戦争を続けています。「勇者」は、魔王を倒すために単身で魔王の城に乗り込みます。しかし彼を待っていたのは、紅玉の瞳を持つ、人間の女性にそっくりの「魔王」でした。彼女は社会が戦争に依存しており、私を倒しても根本的な解決にはならないと「勇者」を説得します。

そして、戦争に依存しない社会という「丘の向こう」というまだ見ぬ世界を見るために、勇者の協力を求めます。勇者は彼女の契約を受け魔王とともに、じゃがいもやトウモロコシの普及など世界の具体的な改革に着手します。そこにラブコメディも加わるという異色のアニメです。

新居昭乃が歌うエンディング曲「Unknown Vision」が心にしみます。

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2013.02.02

■「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」

「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」が劇場公開されました。3部作の完結編。コミック史に残る名場面「蝕」が描かれています。当初は、1本の作品として構想されましたが、原作にできるだけ忠実につくる方針を貫き、3部作に5年の製作期間をかけ、計287分の大作に仕上がりました。

「降臨」は、表現にタブーを設けないという姿勢で臨んだため、直接的な表現が多く、最初は映倫に「R18+」指定を受けました。しかし、微調整を加えることでシーンのカットはせずに「R15+」の作品として劇場公開できました。「R18+」版も限定公開されますが、ほとんど差はなさそうです。

CGにやや違和感がありましたが、「蝕」の場面の映像質感は見事なものでした。ただ、演出に問題があり、鷹の団のメンバーたちの悲壮感が伝わってきません。救いのなさが胸に迫りません。BGMも不自然。しかしガッツが自分の腕を引きちぎる場面などの「音」はリアルでした。

「ベルセルク 黄金時代篇」の劇場版アニメを製作するという無謀な企画を、とにかく実現したことは率直に評価します。ただ、登場人物の作画の不安定さが、最後まで気になりました。限られた予算と時間の中でやむを得ない部分もあると思いますが、残念でした。

また、「原作にできるだけ忠実につくる」という方針も、現実的には多くの取捨選択を余儀なくされています。大きな部分を捨てることで追加しなければならないシーンが必要になり、全体的なバランスを崩す場面もありました。そういう部分の描写は得てして凡庸でした。

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