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2012.11.24

■「ヴァンパイア」


岩井俊二監督の「ヴァンパイア」。カナダを舞台に全編英語の作品。演出・脚本・音楽・撮影・編集・プロデュースと1人6役をこなしています。自殺志願者のサイトで見つけた女性を心中を装って殺し、抜いた血を飲む高校教師が主人公。「死」を通じてでしかつながれないという悲しいラブストーリー。一般的なヴァンパイアものとは違う世界が描かれます。

ストーリーテラーとしての岩井俊二ではなく、風船、蝶、小鳥といった象徴的な映像を通じて時代の空気感を詩的に表現しています。透明な哀しみをたたえた映像は、デビュー当時から一貫しています。

主人公が自殺未遂の女生徒に「生きているのは60兆の細胞で、君の行動は細胞の要求だ。だから君は自分のことばかり考えないで」と話す場面が印象的。たぶん、監督の生命観なのだと思います。

札幌国際短編映画祭2010の特別プログラムでの岩井俊二監督のトークを聞いて、気さくで、本当に柔らかい感性の人だと思いました。だからこそ、素敵な作品をつくり出せるのだと納得しました。

岩井俊二監督作品との最初の出会いは1995年の劇場長編第一作『ラブレター』。中山美穂が二役を好演していましたが、何よりも岩井監督の才能が光っていました。新人監督としてはまとまり過ぎていないか、と思うほど、うますぎるくらいにうまい演出でした。「過剰なものが少しも感じられない。そこが少し物足りない」と感想を書いたら、翌1996年、『スワロウテイル』という冒険心あふれる『やんちゃな映画』が公開され、驚きました。主人公がせわしなく動き回る、ガサついた色調の多国籍映画。先行する映画をパッチワークしながら、監督が本当に描きたかった世界なのかと思いました。

1994年の夏に撮られながらオウム真理教の一連の事件の影響で上映が延期され、しかも一部シーンを削除した上で、やっと公開された『PiCNiC』は、岩井監督の屈折した危機感が出ていました。ここまで人間の暗部を描ける監督とは思いませんでした。殺された教師がクローネンバーグ作品ばりの怪物として登場した時は、劇場がどよめきました。
同時上映の『フライド・ドラゴンフィッシュ』もすごく面白く完成度が高かったです。高級熱帯魚ブームを背景に、さまざまな要素を生かしながら巧みなコメディに仕上げました。あれだけの話を急いだ印象もなく50分にまとめるとは、まさに驚異でした。

2001年に公開された「リリイ・シュシュのすべて」も新鮮でした。インターネット小説から始まった実験的な企画。目の覚めるような鮮烈な構図。いじめや犯罪の容赦のない描写。リリイ・シュシュの歌とドビュッシーの音楽。美しさとやりきれなさに揺れ続ける映像。作品としてのまとまりを拒絶した展開と結末。それは、青春の手触りを大切にするために、意図された手法でした。居心地の悪い、ばらばらな感覚こそ、14歳のリアルに近い。全体の圧倒的な暗さとともに監督の「お遊び」も大切な隠し味でした。 岩井監督は「遺作を選べたら、これにしたい」作品と話していました。

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