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2012.11.24

★2012年11月の映画評(シネマキックス版)

今月は、監督にもスポットを当てて、過去を振り返りました。

■「ヱヴァンゲリヲン新劇場版: Q」
「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の上映前に『巨神兵東京に現わる 劇場版』(10分7秒)が上映されました。「風の谷のナウシカ」に登場する巨神兵が蘇ります。庵野秀明脚本、樋口真嗣監督。ウルトラマンの特撮の雰囲気を生かした懐かしさがあふれる作品です。

さて、「Q」の感想です。何を書いても「ネタばれ」と怒られそうですが、予想を完全に裏切られました。ポジティヴさが感じられた「破」とは全く違います。3.11が大きく影響しているのかもしれません。エヴァは、時代とともに歩んできましたから。

この『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズは、『新世紀エヴァンゲリオン』のリビルド(再構築)作品という位置づけです。全4作を予定。第1作『序』が2007年に、第2作『破』が2009年に、第3作『Q』が2012年に公開されました。完結編は2013年公開とされていましたが、HPから、その予定が消えています。

もともとは、前編2007年9月公開の後、中編の公開時期を2008年陽春、後編+完結編は2008年初夏としていたので、大幅に遅れています。企画段階の構想に近い、大団円となるエンターテイメント志向の作品になると話されていました。完結編は、そうなるのでしょうか。
次回作、完結編のタイトルが「シン・エヴァンゲリオン劇場版:ll 」。「:ll 」は、反復終了記号です。これまでの「序」「破」が「ヱヴァンゲリヲン」と表記してきたことを考えると、答えはループでしょうか。
「ヱヴァンゲリヲン新劇場版 破」DVD版のQ予告編を見返しました。予告編に登場するシーンは、今回公開されたQとは、まったく別のストーリーだと思います。エヴァは、パラレルワールドで物語が進んでいるのかもしれません。

宇多田ヒカルの2年ぶりの新曲「桜流し」は「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」のテーマソング。「Q」のシンジのように、どうしようもなく切ない曲です。公開されたPVは河瀨直美監督が担当していました。

2007年公開の「序」は、「新世紀エヴァンゲリオン」を、高い技術で再構築しました。手づくり感を生かしつつ、精緻で圧倒的に美しく、すごみがありました。冒頭の使徒戦は、何度観ても、どきどきします。宇多田ヒカルのテーマソング「Beautiful World」が、ぴったりとマッチしていました。

「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」では、エヴァ・ストーリーが、ここまで破壊されるとは思いませんでした。「序」からは、想像もつかない展開。ストーリーがTVとは大幅に変わりました。戦闘シーンの迫力も、使徒の動きも独創的。中でもエヴァが使徒に食われるシーンは衝撃的でした。
 全体的に熱量が高かったです。シンジのアスカや綾波レイへの熱い思いが、ほとばしり、奇跡を起こします。 クライマックスシーンで、赤い鳥の名曲「翼をください」が流れ、鳥肌が立ちました。歌っていたのは、綾波レイ役の声優・林原(はやしばら)めぐみでした。

「エヴァQ」を観た後、ファクトリーで開催しているエヴァンゲリオン展に直行しました。日本中の電力を集めるヤシマ作戦などエヴァワールドが楽しめました。ファクトリーにあるユナイテッドシネマでは「エヴァQ」上映していないのが、残念ですね。相乗効果があったのに。

■映画「悪の教典」
「悪の教典」は、貴志祐介(きし・ゆうすけ)原作小説の映画化。三池崇史監督が、どう料理するか期待が集まっていました。初めて三池崇史映画を観た人には十分衝撃的だと思いますが、長年三池作品を見続けてきた私は、詰めが甘く、突き抜け感が少ないと感じます。

主演の伊藤英明(いとう・ひであき)は、2012年、「海猿」と「悪の教典」という真逆の役を熱演したことは評価します。「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」以来の三池作品。ただ、快活さに秘められた残酷さがサイコキラーにつながっていく不気味さまでは伝わってきません。

ストーリーに深みがない。サイコキラーとしての厚みが乏しいです。学園祭準備で夜も生徒が学校に集まっているという設定が、生かしきれていません。恐怖におびえる生徒達の閉塞感、じわじわ感が乏しいです。猟銃での生徒の殺し方も、単純過ぎます。

安っぽい猟銃のCGはマイナスの効果しかなかったです。原作の冒頭に出てくる2匹のカラスはとても印象的ですが、映画的なアイデアでの象徴的なカラスの使い方は、なかなか面白かったです。二階堂ふみの俳優としての存在感は、園子温監督の「ヒミズ」以上でした。

「悪の教典」で連想したのは三池作品の傑作「オーディション」(2000年)です。村上龍の同名小説を石橋凌(いしばし・りょう)主演。椎名英姫(しいな・えいひ)の美しさと怖さがすさまじいです。追いつめられていく息苦しさが強烈。地獄絵図という言葉がぴったりな作品です。

2000年の第29回ロッテルダム国際映画祭の上映では、記録的な人数の途中退出者を出し、映画を観た客が激怒して三池監督に「悪魔!」と詰め寄ったという逸話が伝えられています。多くの賞を獲得し、三池監督の名前を世界にとどろかせました。

伊藤英明(いとう・ひであき)が主演した「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」は、源平合戦と西部劇をミックスした全編英語の活劇。ストーリーはむちゃくちゃですが、マカロニウエスタンと日本の様式美へのオマージュに満ちています。クエンティン・タランティーノの演技がすごかった。北島三郎の主題歌というのも驚きでした。

このほか、2010年公開の「十三人の刺客」が強烈な印象を残しています。これ程堂々とした時代劇は久しぶりでした。骨太な大作の風格。武士たちの壮絶な死闘の連続。監督お得意の悪ふざけも少なく、最後まで緊張が続きます。 観た後、長く後をひく映画でした。

三池崇史監督は、年に数本劇場公開してしまうほど多作で、しかもジャンルやテイストが違うので、海外では複数の監督ではないかと疑われているほどです。これからも驚くような作品を数多く生み出してくれるでしょう。

■「ヴァンパイア」
岩井俊二監督の「ヴァンパイア」。カナダを舞台に全編英語の作品。演出・脚本・音楽・撮影・編集・プロデュースと1人6役をこなしています。自殺志願者のサイトで見つけた女性を心中を装って殺し、抜いた血を飲む高校教師が主人公。「死」を通じてでしかつながれないという悲しいラブストーリー。一般的なヴァンパイアものとは違う世界が描かれます。

ストーリーテラーとしての岩井俊二ではなく、風船、蝶、小鳥といった象徴的な映像を通じて時代の空気感を詩的に表現しています。透明な哀しみをたたえた映像は、デビュー当時から一貫しています。

主人公が自殺未遂の女生徒に「生きているのは60兆の細胞で、君の行動は細胞の要求だ。だから君は自分のことばかり考えないで」と話す場面が印象的。たぶん、監督の生命観なのだと思います。

札幌国際短編映画祭2010の特別プログラムでの岩井俊二監督のトークを聞いて、気さくで、本当に柔らかい感性の人だと思いました。だからこそ、素敵な作品をつくり出せるのだと納得しました。

岩井俊二監督作品との最初の出会いは1995年の劇場長編第一作『ラブレター』。中山美穂が二役を好演していましたが、何よりも岩井監督の才能が光っていました。新人監督としてはまとまり過ぎていないか、と思うほど、うますぎるくらいにうまい演出でした。「過剰なものが少しも感じられない。そこが少し物足りない」と感想を書いたら、翌1996年、『スワロウテイル』という冒険心あふれる『やんちゃな映画』が公開され、驚きました。主人公がせわしなく動き回る、ガサついた色調の多国籍映画。先行する映画をパッチワークしながら、監督が本当に描きたかった世界なのかと思いました。

1994年の夏に撮られながらオウム真理教の一連の事件の影響で上映が延期され、しかも一部シーンを削除した上で、やっと公開された『PiCNiC』は、岩井監督の屈折した危機感が出ていました。ここまで人間の暗部を描ける監督とは思いませんでした。殺された教師がクローネンバーグ作品ばりの怪物として登場した時は、劇場がどよめきました。
同時上映の『フライド・ドラゴンフィッシュ』もすごく面白く完成度が高かったです。高級熱帯魚ブームを背景に、さまざまな要素を生かしながら巧みなコメディに仕上げました。あれだけの話を急いだ印象もなく50分にまとめるとは、まさに驚異でした。

2001年に公開された「リリイ・シュシュのすべて」も新鮮でした。インターネット小説から始まった実験的な企画。目の覚めるような鮮烈な構図。いじめや犯罪の容赦のない描写。リリイ・シュシュの歌とドビュッシーの音楽。美しさとやりきれなさに揺れ続ける映像。作品としてのまとまりを拒絶した展開と結末。それは、青春の手触りを大切にするために、意図された手法でした。居心地の悪い、ばらばらな感覚こそ、14歳のリアルに近い。全体の圧倒的な暗さとともに監督の「お遊び」も大切な隠し味でした。 岩井監督は「遺作を選べたら、これにしたい」作品と話していました。


■「のぼうの城」
「のぼうの城」は、犬童一心監督と樋口真嗣(ひぐち・しんじ)監督の共同監督のスタイルをとっています。極めて現代的な娯楽時代劇でした。戦国末期に豊臣軍の武将・石田三成が率いる2万人の軍勢に500人で立ち向った武将たちを描いた和田竜(わだ・りょう)の歴史小説を映画化。

苫小牧市勇払原野で、2010年8、9月に、約40日間ロケが行われ、苫小牧市民を中心に約4000人がエキストラやボランティアとして参加。東京ドーム約20個分の巨大なオープンセットを組み、城を丸ごと水に沈める、“水攻め”戦術などのシーンを再現。迫力あるCGとともにスケール感あふれる作品に仕上がりました。

 主人公「のぼう様」成田長親(なりた・ ながちか)役の野村萬斎は、最初から最後までおバカぶりを発揮。それでいて、本当に大切な事を理解している優しい名武将を演じています。2012年は成田長親の四百回忌になります。

クライマックスの田楽シーンは、野村萬斎でなければ演じることができなかったでしょう。劇場が一つになって楽しんだと思います。登場人物を魅力的に造形しながら、重苦しいリアリティーよりも大げさな演出、コメディータッチを打ち出す方針が、成功しています。
犬童一心監督との出会いは、2000年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭。ヤング・ファンタスティック・クランプリ部門でグランプリに輝いた『金髪の草原』で新しい才能に出会いました。大島弓子のコミックの映画化です。
80歳の老人がある日目覚めると20歳の青年になっているというファンタジー。心温まるアイデアで、登場人物もみなユニーク。本人は20歳のつもりだが、周りは80歳と思っています。そしてマドンナとして憧れていた女性に似ていたお手伝いさんに恋をします。夢のあるボケを描いているのかと思って見ていると、そうでもないようにも思えてくるような不思議な仕掛けが用意されていました。

「ジョゼと虎と魚たち」を観たときの感激も忘れられません。柔らかく繊細な映像で、抜群の映画的なセンス。田辺聖子の原作を渡辺あやが見事な脚本に膨らませています。大学生・恒夫の物語が、やがてジョゼの自立の物語へと変わっていきます。その語り口の巧みさに舌を巻きました。わずか1か月で撮影されたとは、とても思えませんでした。

「メゾン・ド・ヒミコ」にも触れない訳にはいきません。ゲイのための老人ホームが舞台。末期癌のゲイの父親・卑弥呼、その恋人、家族を捨てた父を嫌悪している娘を中心に、ホームにいるゲイたちが魅力的に描かれています。だれもが屈折した思いを抱えた複雑な人物として登場します。なかでも卑弥呼役・田中泯の存在感は圧倒的。登場すると空気が緊張します。「ジョゼと虎と魚たち」とは別のベクトルで、これまでの人間ドラマの地平を一歩超えた傑作です。
そして、今回の新たなコメディ時代劇の誕生。変化していく犬童一心監督からも目が離せません。


■「危険なメソッド」
デヴィッド・クローネンバーグ監督の「危険なメソッド」です。クローネンバーグ監督の作品は、1969年の「ステレオ」以降、ほとんど観ています。特に「ザ・フライ」の表現力には打ちのめされました。身体の変容や特殊能力を描く作品から、人間の心の奥底を覗き込むような内容に変わっていきました。しかし、めまいを起こしそうな危うい作風は、変わっていません。

「危険なメソッド」は、ユングとフロイト、患者ザビーナの3人を中心とした人間ドラマです。ヴィゴ・モーテンセン、マイケル・ファスベンダー、ヴァンサン・カッセルが、それぞれフロイト、ユング、グロスと3人の精神科医を演じます。さすがに渋くて、貫禄あります。

しかし、3人よりも、すごかったのはザビーナ役のキーラ・ナイトレイです。目をむき下あごを突き出し、顔の筋肉を震わせて恐怖、怒り、不安と激しく変化する感情を表現していました。熱演という表現すら、なまぬるいような壮絶な演技でした。

ザビーナは自分の欲望を相対化して、自らも精神科医を目指します。ユングは、やがて神経衰弱となります。精神を病んだ者が精神科医となり、精神科医が精神を病んで行きます。端正で気品のある映像美につつまれながら、心の奥底の闇へと連れて行かれます。

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