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2012.02.19

■「ミラノ、愛に生きる」は1970年代イタリア映画のパロディ

 映画「ミラノ、愛に生きる」。プロデュースも担ったティルダ・スウィントンがルカ・グァダニーノ監督と11年にわたって企画を練り続け、全編イタリア語で主演しています。一見古めかしく見えるこの作品、すごいくせ者なんです。その魅力は、一筋縄では味わいきれません。舞台も物語も古くさいです。雪のミラノで開かれる晩餐会から、静かに始まります。繊維業で成功を収めたレッキ一族の後継者タンクレディと結婚したロシア人のエンマは、息子の友人でシェフのアントニオと出会い、激しい恋に落ちます。この確信犯的な唐突感。

 フィルムの質感、ストーリー展開のテンポ、おおげさなBGMの使い方、まさに1970年代のイタリア映画のパロディです。イタリア・ミラノといえば、ルキノ・ヴィスコンティ。ビスコンティを彷彿とさせる風格のある映像を撮るかと思えば、わざと稚拙に見える演出を選んだりします。

 ティルダ・スウィントンが、見事に着こなす様々な衣装が眼を引きます。主人公の内面を鮮明に映し出します。ファッションブランド「ジル・サンダー」のラフ・シモンズと組ました。そして、アカデミー賞衣装デザイン賞候補にもなりました。

 ティルダ・スウィントンとは、デレク・ジャーマン監督の映像詩「ラスト・オブ・イングランド」(1987年)で出会いました。大英帝国の終焉をテーマに暗く破壊的なイメージが幾重にも交錯します。映画というよりは映像アート。そこに登場するティルダ・スウィントンの硬質な美しさに驚きました。

 ティルダ・スウィントンはサリー・ポッター監督「オルランド」(1992年)に主演します。オルランドの肉体は、深い眠りの後に男性から女性に代わります。スウィントンは、その中性的な魅力を開花させていました。「ミラノ、愛に生きる」は、「オルランド」以来のスウィントン主演作品です。

 「ミラノ、愛に生きる」に登場する料理は、美しく、そして重要な役割を果たします。 エンマがエビ料理を食べて官能を取り戻すシーンは必見です。料理を手がけたのはミラノ料理界の奇才カルロ・クラッコです。
http://www.ristorantecracco.it/en.ricette.asp

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2012.02.11

■「ALWAYS 三丁目の夕日'64」を2Dで

「ALWAYS 三丁目の夕日'64」を2Dで観ました。いかにも3D向きの構図が時折ありましたが、2Dで十分楽しめました。とても良くできた脚本で、非常にバランスの良い展開。泣かせる場面を効果的に散りばめています。ただ、私は1、2作ほどは大泣きしませんでした。

第1作「ALWAYS 三丁目の夕日」が公開された2005年は、まだ市場原理主義がもてはやされていましたが、それを見事に相対化していました。 かといって1958年当時を過度に美化するわけでもなく、負の側面も描いていました。ベテラン俳優たちの熱演のほか、子役たちに泣かされました。

第2作「ALWAYS 続・三丁目の夕日」は、2007年公開。冒頭で突然CGのゴジラが登場し、ゴジラファンの私はそれだけでノックアウトされました。完成後の東京タワー、東京駅、羽田空港、日本橋、DC-6B、特急こだまが、CGで再現されていました。何度か涙が出ました。

第3作「ALWAYS 三丁目の夕日'64」は、東日本大震災後、人と人のつながりが見直すされている現在に、みごとにマッチした時期に公開されました。大泣きすると周りに言われていたので、身構えていたのかもしれませんが、先の読める展開で、大泣きせず、ウルウルするくらいでした。

当時の負の側面が描かれず、前向きな雰囲気、温かな思いやりが強調されていたので、気持ちは良かったものの、少し物足りなさが残りました。2Dでも感動するような当時を再現したCGが観たかったです。そして1、2作で弾けていた子役たちが、活躍しなかったのも、残念でした。

原作コミック「夕焼けの詩」は、一貫したストーリーは無い、時間を自由に行き来する一話完結型の作品です。実写映画化では、一貫したストーリー展開になっています。私は、原作の自在さを生かしたオムニバス形式の映画化を希望します。そして毎年劇場公開してほしいです。

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2012.02.05

出だし好調。劇場版「ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵」

劇場版「ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵」は、三浦建太郎原作の漫画『ベルセルク』すべてを映像化する“ベルセルク・サーガプロジェクト“第1弾です。コミックの4巻から6巻の途中までを、とても丁寧に描いています。重厚にして軽やか、大胆にして繊細。作画的な統一性に難がある場面もありますが、全体的には作品の雰囲気を良く表現しています。

 ガッツのバズーソ戦から始め、グリフィスとの出会いにつなげる導入は正解です。ただ、細かな原作改変については、意見が分かれるでしょう。バズーソ戦の後、平沢進の主題曲 「Aria」とともにオープニングタイトルが流れます。これが、なかなかのセンス。一気に「ベルセルク」の世界に引き込みます。 鷺巣詩郎のサントラも壮大でスケール感を増しています。

 映像表現の妥協のなさは、予想以上でした。戦争シーンでは、血なまぐさい表現が続きます。不死のゾッドとの戦闘シーンは、一番見応えがありました。容赦ない残酷な場面と、自然の穏やかな描写は、対照的です。作画の丁寧さが印象的です。グリフィスの美しさ、優雅さ、聡明さ、無邪気さが、とてもよく描かれていました。キャスカも好印象。ガッツの作画は、少し不安定な気がしました。

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2012.02.01

★「エンディングノート」、お勧めです。2012年1月の映画評です

■「エンディングノート」
砂田麻美監督。2012年最初に観た劇場公開作品でしたが、いきなり最高水準の作品に出会いました。新しいドキュメンタリー映画の地平を切り開いた感じです。いや、計算だけではできなかった、奇跡的な作品だと思います。

2009年、東京。熱血営業マンとして高度経済成長期に会社を支え駆け抜けた「段取り」が得意なサラリーマンは、67歳で40年以上勤めた会社を退職、第二の人生を歩み始めた矢先、毎年受けていた健康診断でガンが発見されます。すでに末期で、彼が最後のプロジェクトとしたのは「自分の死の段取り」エンディングノートの作成でした。

「エンディングノート」は、膨大な映像記録から“家族の生と死”という深刻なテーマを軽快なタッチで描きます。その編集力は、初監督作品とは思えません。
 もうすぐ死が迫っていることが分かっていても、家族のユーモアあふれる会話に、思わず笑ってしまう不思議な映画です。
何か、驚くような真実が明らかになるわけではありません。普通の人が、家族に見守られて普通に死んでいく記録。それが絶妙な距離感を持った的確な映像によって、心揺さぶられる傑作になりました。

■映画「ヒミズ」(園子温監督)
 古谷実(ふるや・みのる)のコミックを原作にしながら、設定を東日本大震災後に変え、結末も変更しています。その試みは成功したとは言えません。大震災のがれきのシーンが延々と続きますが、そのリアリティにストーリーが負けています。不必要な登場人物が多く、物語の展開もしっくりときません。原作は日常の閉塞感が基本ですが、今の日本は非常時が日常化しています。日本が、原作とは、逆の状況になったので、最初から無理があります。

 出演した染谷将太(そめたに・しょうた)と二階堂ふみ(にかいどう・ふみ)は、第68回ヴェネツィア国際映画祭で、新人賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞しましたが、演技のレベルの高さへの評価よりも震災後の日本への応援的な要素が濃そうです。映画を観て、そう感じました。

園子温監督は映画「ヒミズ」の中で、繰り返し原発事故について触れていましたが、福島第一原発事故をテーマにした作品を企画中です。ただ「政治的な映画は作りたくなく、反核などのメッセージを入れたくはない。どういう風に撮るかはこれからの課題」と話しています。

このところ、矢継ぎ早に質の高い大作を制作してきた園子温監督、さすがに粗さが目立ってきたと思います。

■「マーガレットと素敵な何か」。
監督、脚本は「世界でいちばん不運で幸せな私」のヤン・サミュエルです。
久しぶりのソフィー・マルソー。45歳になりますが、なかなか素敵なキャリアウーマンを演じています。著名なる女性たちのポートレートを観て、今日は“ココ・シャネル”明日は“エリザベス・テイラー”次の日は“マリア・カラス”と、パワフルな女性たちからエネルギーをもらって頑張る姿が、とてもけなげです。
しかし、7歳の自分から届いた手紙をきっかけに、現在の自分のあり方を問い返していきます。ソフィー・マルソーのさまざまなコスプレが観られますよ。楽しかったです。

■「リアル・スチール」
スティーブン・スピルバーグとロバート・ゼメキスが製作総指揮を務めています。
普通は、この手の映画は見ないのですが、だまされたと思って、観賞しました。予告編にだまされました、とても良かったです。
 人間に代わり高性能のロボットがボクシングをする時代。元ボクサーの父チャーリーと、母を亡くした息子マックスは、旧式のロボットATOMと出会い、父子の絆を取り戻していきます。
 マックス役のダコタ・ゴヨが印象的。スピルバーグがオーディションを繰り返し粘りに粘って見いだした子役です。
 父と子がATOMを操作してロボット・ボクシングを勝ち進んでいくというお決まりのストーリーですが、クライマックスの盛り上げ方は、実に見事です。細かなユーモアも良く生かされています。
 単純に見える物語に、深みのあるファンタジックな味付けをしているのもミソ。ATOMは、もちろん鉄腕アトムへのオマージュです。そのほかにも、日本のロボットへの敬愛が感じられました。

■「宇宙人ポール」
イギリス人のSF作家クライヴとイラストレーターのグレアムは、アメリカ・サンディエゴで開かれたマニアの祭典・コミコンに参加。その後2人は長年の夢だったアメリカのUFOスポット巡りをしますが、“エリア51”付近で、宇宙人ポールに接近遭遇。ポールを乗せた珍道中が始まります。

下ネタ満載のコメディ。長い地球生活で、すっかりアメリカナイズされた宇宙人ポールのキャラクターが最高に笑えます。そして、ハートフルにまとめています。物語は、単純なようで屈折した構造です。アメリカのサブカルチャーを愛しつつ、アメリカへの厳しい批判が貫かれています。

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