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2011.12.30

2011年・劇場映画独断ベスト10


私が、2011年に劇場で観た映画の中から選んでいます。ご了承ください。
【洋画】
1位「未来を生きる君たちへ」
デンマーク映画。スサンネ・ビア監督。暴力と赦しという普遍的な問題を、紋切り型でなく、具体的に、そしてリアルに描いています。子供の諍い、夫婦の諍い、デンマークとスウェーデンの諍い、アフリカの諍いが描かれ、そのらが連鎖して人々を苦しめます。心が揺さぶられます。生々しい人間表現と繊細な映像美。独特の感性を持つ監督です。
抑制された演技に込められた大人たちの屈折した思いが、激しく胸をうちますが、エリアスとクリスチャンという2人の少年の演技のリアルさも、この作品を支えています。ふたりは、演技経験が全くなかったというから驚きです。
 スサンネ・ビア監督は「ある愛の風景」でアフガニスタンの戦乱、「アフター・ウェディング」ではインドのスラムとデンマークをつなぎました。今回はアフリカの過酷な難民キャンプとデンマークがつながっています。監督は「複雑になってきている世界の一部なんだと感じることが大切」と話しています。

2位「ブラック・スワン」
 ニューヨーク・シティ・バレエ団を舞台にした、ダーレン・アロノフスキー監督の「ブラック・スワン」は、監督の熱い思いが詰まった傑作です。なんといっても映像の強さに、圧倒されます。衝撃的な映像にあふれています。ラスト近くは、ほとんどホラーのような錯乱映像。その独特な表現に、ついていけない人も多かったようですが私は感動しました。
  ニナ役ナタリー・ポートマンの演技は、眼を見張るものがありました。10か月トレーニングして、ほとんど自分で演じています。ポートマンは努力家で、これまでも汚れ役を演じてきましたが、どこか冷めた眼で自分を分析しているところがありました。今回は、ニナと同じように殻を破り、ともに錯乱していくほどの熱演でした。

3位「英国王のスピーチ」
第83回アメリカアカデミー賞の作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞の4冠を獲得しました。
演説のうまいヒトラーが率いるドイツとの開戦スピーチに臨む、言葉がうまく話せない吃音症(きつおんしょう)に苦しむジョージ6世の物語です。そのジョージ6世を支えたのが、専門の医者ではなく第一次大戦のショックで言葉を失った多くの人を治療してきた、役者志望のオーストラリア人という史実に驚きます。
なんと言っても、脚本が素晴らしい。重くならず、あえて下品なユーモアを交えてながら、クライマックスの緊張感あふれる歴史的なスピーチへと盛り上げていきます。アカデミー史上最高齢で脚本賞を受賞したデヴィッド・サイドラーは、73歳です。エドワード8世役のガイ・ピアースが、コリン・ファースと華やかです。対照的なキャスティングも見事でした。

4位「人生、ここにあり!」
ジュリオ・マンフレドニア監督。イタリアで観客動員40万人を超え、54週ロングランを記録し、イタリアのゴールデングローブ賞を受賞した作品です。イタリアでは精神病院廃絶法であるパザリア法(1978年制定)により、精神病院の患者たちが一般社会で暮らせるようにしようという試みが行われました。そのときの実話をもとにした映画です。病院を出た患者たちと労働組合員が一体となって仕事を見つけ。困難を乗り越えていきます。
精神障害というデリケートなテーマを扱いながら、ユーモアあふれる人間賛歌になっています。個性的な登場人物がぶつかり合い、励まし合う。患者たちが自分たちの力で自信を取り戻していきます。けして美化するのではなく、奇麗ごとではない人間ドラマになっています。  

5位「キック・アス」
従来のアメコミ映画のぬるさをぬぐい去った、軽快なコメディと容赦のないバイオレンス表現が混ざりあった傑作です。全米で大ヒットしたにもかかわらず、過激な表現に腰が引けて日本公開がなかなか決まりませんでしたが、日本でもヒットしました。
 マシュー・ヴォーン監督は、まずソニーと契約して製作費を捻出しようとしましたが、バイオレンス描写を弱めるよう要求をされたため断念。他のスタジオも興味を示しましたが、キャラクター設定の変更を求められたため、結局ヴォーン監督が自分で製作費を調達して完成しました。つまり自主映画。じつに天晴です!!。
「キック・アス」の本当の主人公は、ヒット・ガールです。素晴らしい戦闘能力を持つ11歳の美少女。クロエ・モレッツが、放送禁止用語を連発しながら、キュートに熱演しています。彼女を訓練した父親ビッグ・ダディとともに、喜々として悪人たちを殺し回ります。善悪は別にして、痛快です。

【邦画】
1位「大鹿村騒動記(おおしかむらそうどうき)」
 原田芳雄(2011年7月19日死去)自身が発案し、キャスティングをそろえた「大鹿村騒動記」は、原田芳雄の遺作となりました。
300年以上伝統行事の大鹿歌舞伎をまもりつづけてきた大鹿村を舞台にしています。農村の若者離れ、外国人就労者、公共事業誘致、認知症、性同一性障害、戦争の傷跡など、深刻な問題も盛り込んでいますが、映画は軽妙な喜劇に仕上がっています。名優たちの掛け合いに笑い続けました。少しひいた位置にいる父親役の三國連太郎は、素晴らしく枯れた演技をみせてくれました。
 面白くて、奥行きがあって、ラストはハッピーエンドにせず、とぼけて突き抜けています。原田芳雄の遺作というだけでなく、作品としても傑出しています。

2位「冷たい熱帯魚」
 園子温(そのしおん)監督。全く無駄なシーンがありません。凄まじい完成度でした。
 その映像のパワー、衝撃力は中島哲也監督の傑作「告白」をさえ上回ります。その突き抜けた描写は、清々しいほどです。
まったく救われない家族を描いています。映画を制作した当時の監督は、死んでもいいくらいに落ち込んでいたので、救いのある話で自分が救われるよりも、徹底的に救いのない映画にすることが大事だと思って、つくったそうです。暴力と狂気に満ちているのに、吹っ切れています。吹越満(ふきこし・みつる)、でんでん、黒沢あすかとも、演技の針が振り切れる熱演。それぞれにとって、代表作になると思います。
園子温監督の新作の壮絶な女性映画「恋の罪」も傑作です。

3位「ステキな金縛り」
失敗続きの弁護士エミが、殺人事件の被告人のアリバイを唯一証明するため落ち武者の幽霊を法廷に引っ張り出して奮闘するドタバタコメディです。幽霊が見える人と見えない人がいるという点がミソです。
三谷監督と私は、これまであまり相性が良くありませんでした。今回も旅館の主人の現れ方や検事の奇術は、作為的で好きになれませんが、その他は素直に笑いました。幽霊役の西田敏行をはじめ、芸達者ぞろいの配役で盛り上がりましたが、なかでも検事役中井貴一のとぼけた味が光りました。
ラストのギャグも好きです。エンドロールの心霊写真も笑えるので、お見逃しなく。

4位「一枚のハガキ」
 撮影当時98歳。「一枚のハガキ」は、日本最高齢監督の新藤兼人が、自らの実体験をもとに引退作として製作した戦争ドラマです。枯れた所がありません。その熱さに驚きます。過酷な状況の中の、ユーモラスな表現にも驚きます。大竹しのぶの、俳優としてのすごさをあらためて感じました。
ほとんどの戦友が死ぬ中で、監督が生き残った負い目に耐えながら生きてきたことがよく分かります。それが、映画をつくる原動力になったことも。この作品は、新藤兼人監督の初心であり、集大成です。

5位「八日目の蝉(ようかめのせみ)」
成島出(なるしま・いずる)監督の「八日目の蝉」は、容赦のない過酷な展開の末に、ぱっと明るい結末がやってきます。とても驚かされる作品です。 
女優たちが熱演しています。 井上真央(いのうえ・まお)、永作博美(ながさく・ひろみ)、森口瑤子(もりぐち・ようこ)が、ぎりぎりの演技を見せます。子役の渡邉このみも、うまかったです。しかし、一番印象に残ったのは、小池栄子(こいけ・えいこ)です。彼女は堂々とした演技が多いですが、今回は猫背で、居場所を失った女性を好演していました。なかなかの演技派です。

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2011年12月の映画評・シネマキックス版

■「ミッション: インポッシブル/ゴースト・プロトコル」
面白かったです。ブラッド・バード監督の初実写映画。これまで「アイアン・ジャイアント」「Mr.インクレディブル」「レミーのおいしいレストラン」と、名作アニメを監督してきました。
荒唐無稽で、突っ込みどころ満載ですが、ハラハラし通しの1級の娯楽作です。ちょっとひねった多くのユニークなアイデアに感心しました。なんといっても、絶妙に始まるオープニング・タイトルの出来は最高です。一番目立っていたのは、トム・クルーズではなく、大活躍のiPadとiPhoneでした。
 作品は、なかなかスケール感があります。ドバイ、プラハ、モスクワ、ムンバイ、バンクーバーでロケをしていますが、それぞれの雰囲気をうまく生かしています。ストーリーは流れるようにつながっていて、心地よい高揚感がありました。なによりも、往年の「スパイ大作戦」的なチームプレイによる「だまし」作戦が嬉しかったです。ただ、最後はどういう訳か肉弾戦になってしまいます。

■「マネーボール」
監督は「カポーティ」でアカデミー監督賞にノミネートされたベネット・ミラー。メジャーリーグの選手から球団アスレチックスの経営者になった実在の人物ビリー・ビーンの生き方を描いた作品です。2002年「マネーボール理論」を導入してチームの変革を行い、公式戦20連勝を記録しました。短気だけれど自らの信念を貫き通すビリー・ビーンを、ブラッド・ピットが演じています。元野球選手たちが選手役で出演し、リアル感があります。
 ビリー・ビーンは、データ分析が得意なピーター・ブランドと出会い、これまでの常識にとらわれず低予算で強いチームを作る方法を考え出します。野球界の伝統を重んじるスカウトマンは、猛反発しますが、チームはやがて連勝し、注目されます。そして、レッドソックスのオーナーから史上最高額でのGM就任のオファーを受けます。
 個人の「出塁率を最も重視する」方針が、野球というチームプレーで絶対とは言えませんが、低予算で埋もれた戦力を得るという先駆的なデータ野球だと思います。ただ、その理論が注目されると、結局はデータ分析に基づく判断が一般化し、裕福な球団が優秀な選手を獲得することになります。ビーンはレッドソックスに行きませんでしたが、レッドソックスはビーンの理論を使ってワールドシリーズを制覇し、理論の正しさを証明しました。ハリウッド映画らしくないほろ苦い結末ですが、お金に左右されない生き方を選んだビリー・ビーンに共感します。
 ビリー・ビーンは、その後「マネーボール理論」を医療制度やサッカーに導入します。個人的には、そこまで描いてほしかったなと思いました。

■「カウボーイ&エイリアン」
「エイリアンが西部劇の時代に現れたら」というトンデモな発想の作品ですが、本格的な西部劇の雰囲気に驚きます。冒頭の展開に痺れました。ダニエル・クレイグが演じるガンマン、ハリソン・フォードが演じる悪役が、さすがの存在感を見せますが、ストーリー的なひねりは少ないです。エイリアンの魅力はゼロ。知的なはずなのですが、醜悪で凶暴なだけの異星人は最近の流行りです。このごろのハリウッド映画の異星人像は、「エイリアン」や「プレディダー」のころよりも後退しています。異質な存在に対する人間の謙虚さが、微塵も感じられません。


■「ヒマラヤ・運命の山」
ドイツの山岳映画です。監督は、ヨゼフ・フィルス・マイアー。実際にナンガ・パルバートでロケをした映像は、すごい迫力です。
1970年6月。ラインホルト・メスナーは弟のギュンターとともに、難しいルートであるナンガ・パルバート・ルパール壁(へき)からの初登頂に成功します。しかし、下山途中に弟ギュンターが死亡します。さらに初登頂成功は、フェリックス・クーエンのチームとされ、弟のギュンターの死はメスナーの責任にされます。そして隊長のヘルリヒ・コッファーとの間で裁判に発展します。
登山家たちの不信感やライバル意識、自己過信などが絡み合って、物語はサスペンスをはらんでいきます。メスナーの著書「裸の山 ナンガ・パルバート」の映画化なので、メスナーの視点から描かれています。
映画を観て驚いたのは、メスナーとギュンターがすごい軽装備だった点です。あまりにも無謀です。ヒマラヤ登山は、装備や食糧・燃料など膨大な物資を高所キャンプに運ぶ必要があり、大人数のチームワークが不可欠だと思っていました。しかし、ほとんど単独での軽装備登山が可能であるということが分かりました。

■「さすらいの女神(デイーバ)たち」
第63回カンヌ国際映画祭・最優秀監督賞を受賞しました。チュー・アマルリック監督・主演です。
ユーモラスでセクシーな舞台を見せるニュー•バーレスクのツアーを描いた作品。落ちぶれたテレビプロデューサーが、再起を目指し巡業する姿を切なく切り取っています。舞台では生き生きと輝きながらも、深い孤独を抱える女性たちの姿も印象的です。全員現役のダンサーが出演し、ドキュメンタリーのような味わいでした。クリスティーナ・アギレラが映画初出演した洗練され、豪華絢爛な「バーレスク」と違い、派手さの裏に寂しさが漂います。

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■投稿サイト・ショートフィルム・2011年独断ベスト10

私が2011年にインターネットの投稿サイトで観たショートフィルムの独断ベスト10 です。

■ショートフィルム・2011年ベスト10

★(M+A) - "My Super8"   5分30秒
http://vimeo.com/20402527

★kokiriko bushi 
http://www.youtube.com/watch?v=2SoZzlgQzHM

★The Mountain
http://vimeo.com/22439234

★Baaa
http://www.youtube.com/watch?v=WQO-aOdJLiw&feature=related

★World Builder
http://vimeo.com/3365942

★Channel 5 Idents 
http://vimeo.com/8379969

★Hezarfen
http://vimeo.com/18855836

★Immortals - Official Trailer 2 [HD] 
http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=v5DdowcQq4U

★Talking Twin Babies - PART 2 - OFFICIAL VIDEO
http://www.youtube.com/watch?v=_JmA2ClUvUY

★Zeitgeist 2011: Year In Review
http://www.youtube.com/watch?v=SAIEamakLoY

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CMショートフィルム2011年ベスト5

私が、投稿サイトで今年観たショートフィルムから選びました。
CMショートフィルム2011年ベスト5

★Battle For The LAST Beer - COOL!~
http://www.youtube.com/watch?v=xG9ZyDMZt-s

★Animating Chanel - Nowness
http://www.youtube.com/watch?v=4JyG5rJM6VA

★Audi A4 2.0 TDI e commercial "Intelligently combined"
http://www.youtube.com/watch?v=QggS6gdeR0w

★Lynx Excite TV Advert - Full Length Version http://www.youtube.com/watch?v=EfeVEAZkJqM&hd=1

★Coca-Cola Siege
http://www.youtube.com/watch?v=Shvwd7VYpE0

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「魔法少女まどか☆マギカ」関連2011年ショートフィルムベスト5

私が、投稿サイトで今年観たショートフィルムから選びました。
「魔法少女まどか☆マギカ」関連2011年ベスト5

★ほむらちゃほむほむ
http://www.youtube.com/watch?v=eESbGVn8dCY

★Mahou Shoujo Madoka Magica OP: Connect (Trance REMIX)
http://www.youtube.com/watch?v=pwAmaknZvGY

★まど☆マギ QBの営業テーマ曲 MADOKA MAGICA QB's Business Themes Violin+illust
http://www.youtube.com/watch?v=joqKs-s35DM

★[ニコカラ]Magia【Onvocal】(魔法少女まどか☆マギカED)
http://www.youtube.com/watch?v=vT1AqfCx7S4

★ほむほむのなく頃に 【Homu Homu no naku koro ni】 http://www.youtube.com/watch?v=TxFrqY9dAXE&NR=1

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2011.12.03

■2011年11月の映画評・シネマキックス版

★「猿の惑星 創世記(ジェネシス)」
ルパート・ワイアット監督。新しいシリーズの始まりと位置づけられています。薬物研究者のウィル・ロッドマンが、父のアルツハイマー型認知症を治そうと開発した新薬が、猿の知性を驚異的に発達させるというストーリーです。父と子の感動的な物語と知性を発達させた猿たちが人間を憎む過程が描かれていきます。CGの猿たちの動きや表情が、とても繊細で、CGとは思えなくなるほどです。
 知性を持ったシーザーが、自分は何者かと悩み、最初は人間の側にいようとしますが、やがて猿たちの側にまわり、人間と闘います。まだ「猿の惑星」らしさは乏しいですが、次回作に期待しましょう。父親役のジョン・リスゴーの演技が素晴らしかったです。「スラムドッグ$ミリオネア」のヒロインとして注目されたフリーダ・ピントがウィルの恋人役で登場します。

★「ミッション 8ミニッツ」
ダンカン・ジョーンズ監督。 イマイチの邦題です。「ソース・コード」という原題の方が良かったと思います。
シカゴで乗客全員が死亡する列車爆破事件が発生し、犯人捜索のためのミッションに、米軍兵士のスティーブンスが選ばれます。事故犠牲者の事件発生8分前の意識に入り込み、犯人を見つけ出すという作戦で、何度も死を体験しながら犯人を見つけますが、同時に爆破自体を防がない作戦への疑問も抱き始めます。
 かなり強引な設定ですが、少し違う同じ場面の繰り返しは、映像的には面白かったです。ある意味でパラレルワールドものといえます。なかなかスリリングな展開ですが、多くの違った世界があるときに、ひとつの世界だけのハッピーエンドは意味がないというパラレルワールドの難問を克服していません。これは、すごく難しいことなのですが。

★「インモータルズ 神々の戦い」
ターセム監督の「インモータルズ 神々の戦い」は、ギリシャ神話を題材に描くアクションスペクタクル。壮大で眼もくらむような映像美の世界です。とりわけ、ラスト、神々の空中戦の美しさは比類がありません。
 ただ、前作「落下の王国」のような映像美ではなく、「300」のような残酷美がまさっていました。予告編から、想像する映画とはかなり違った印象を持つはずです。だから、すべての人にお勧めはできません。
 また、映像のキレはいいのですが、ストーリーのキレは、イマイチです。
 ここまで吹っ切れた残酷表現ができるのなら、ターセム監督には、コミック「GANTZ」のシャープな切断美を実写化してもらいたいですね。
 ここでも、予言者で主人公の恋人役としてフリーダ・ピントが出演しています。インド出身の監督としては、当然の抜擢でしょう。

★「恋の罪」
 園子温(その・しおん)監督の新作「恋の罪」は、1990年代、東京都渋谷区円山町ラブホテル街で起きた殺人事件からインスパイアされて監督が脚本を手掛けた作品です。殺人課の女刑事、大学の助教授、人気小説家の妻の生き様が交錯します。
 冒頭のショッキングな遺体の場面にはたじろぎましたが、全体としては前作「冷たい熱帯魚」ほどのグロテスクさはありません。そして、ラストにはユーモアさえ漂います。
 壮絶な女性映画です。普通なら水野美紀(みずの みき)の熱演が高く評価されるでしょうが、冨樫真(とがし まこと)の怪演の前ではかすんでしまいました。そして神楽坂恵(かぐらざか めぐみ)はあまりにも素晴らしくて園子温監督と婚約してしまいました。3人のほかに大方斐紗子(おおかた・ひさこ)の貫禄の演技にも驚かされます。
女性の苛烈な欲望を描いていますが、カフカの「城」が象徴的に使われ、詩人・田村隆一の「帰途」が繰り返し引用されます。そして、マーラーの交響曲第5番が映像を荘厳に染め上げます。女性たちの屈折、トラウマをテーマにしているので、ベルイマンの作品を思い出しました。 今年「冷たい熱帯魚」と「恋の罪」が劇場公開されました。来年1月には次回作「ヒミズ」が公開されます。なんというハイペースでしょう。
★「ステキな金縛り」
失敗続きの弁護士エミが、殺人事件の被告人のアリバイを唯一証明するため落ち武者の幽霊を法廷に引っ張り出して奮闘するドタバタコメディです。幽霊が見える人と見えない人がいるという点がミソです。
これまで観た三谷幸喜(みたに・こうき)監督作品で、一番楽しみました。三谷監督と私は、これまであまり相性が良くありませんでした。今回も旅館の主人の現れ方や検事の奇術は、作為的で好きになれませんが、その他は素直に笑いました。
ラストのギャグも好きです。エンドロールの心霊写真も笑えるので、お見逃しなく。
幽霊役の西田敏行をはじめ、芸達者ぞろいの配役で盛り上がりましたが、なかでも検事役中井貴一(なかいきいち)のとぼけた味が光りました。

★「大鹿村騒動記」
シアターキノで、追悼上映「原田芳雄アゲイン1」が、11月19日から25日までありました。
 原田芳雄自身が発案し、キャスティングをそろえた「大鹿村騒動記」が、原田芳雄の遺作として、あまりにもでき過ぎていることについては、多くを語りませんが、本当によくできた作品でした。
300年以上伝統行事の大鹿歌舞伎をまもりつづけてきた大鹿村を舞台にしています。農村の若者離れ、外国人就労者、公共事業誘致、認知症、性同一性障害、戦争の傷跡など、深刻な問題も盛り込んでいますが、映画は軽妙な喜劇に仕上がっています。名優たちの掛け合いに笑い続けました。少しひいた位置にいる父親役の三國連太郎は、素晴らしく枯れた演技をみせてくれました。
 面白くて、奥行きがあって、ラストはハッピーエンドにせず、とぼけて突き抜けています。原田芳雄の遺作というだけでなく、作品としても傑出しています。


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■クラークシアター2011報告

 クラークシアター2011が、2011年11月2日~11月6日、北海道大学クラーク会館 講堂 (札幌市北区北8条西8丁目)で開かれました。今年はSAPPOROショートフェストと連携して、ノミネートされた学生作品のプログラムを組んだほか、東京芸大の優れたアニメを特集するなど、魅力的なプログラムでした。
 これは映画祭実行委の責任ではないのですが、クラーク会館講堂の設備が古く、機材トラブルが起こって、たびたび上映時間が変更になりました。また、暖房が故障し会場はかなり寒い時もありました。北海道大学も元気プロジェクトとして評価しているのですから、会場設備の整備についても配慮が必要だと思います。良好な上映環境があってこそ、地域に開かれた映画祭として支持されていくと思います。とても素晴らしい映画祭なので、期待しています。
  SAPPOROショートフェスト2011にノミネートされた学生作品をセレクトしたプログラムは、グランプリを獲得したヤン・ヒョジョ監督の「ブロークン・ナイト」など、とてもハイレベルな作品が並びました。「ヘザルフェン」「レインタウン」と、アニメも含め、完成度がとても高いです。もう、学生作品と一般作品のレベルの違いはなくなっていると思います。ただ、やはり学生はあらけずりでも独創的な試みをしてもらいたいです。
 その点、東京芸大のアニメ作品は、作家性、独創性が全面に出ていて、面白かったです。14作品を集めたプログラムでは、風船ガムをかむのが好きな小学生を描いた「くちゃお」が突出していました。楽しく、ダイナミックに踊る映像にくぎづけになりました。「いないいないばあば」は、懐かしいノイズに満ちたユニークな質感が、とても印象的でした。白石慶子(しらいし・けいこ)監督とは、Twitterを通じて交流しました。「CGやフィルム制作をして行き着いた質感です」と教えてくれました。「さまよう心臓」と「指を盗んだ女」は、ハイレベルのホラーでした。そのほか、どの作品も、本当に個性的で突き抜けています。人によって好きな作品が違ってくるような多様性に満ちた作品のセレクトでした。
 「次世代を担う学生の実力」と題したオープニング上映でも、東京芸大のアニメが選ばれていました。モリシタトヨミ監督の「Flowers」は、柔らかな変化が心地よい作品でした。モリシタトヨミ監督とは、Twitterのほか、オープニング上映後のレセプションでもお話ししました。東京芸大のアニメプログラムをコーディネートした人でもあります。
 マヤ・デレン特集は、素晴らしかったです。マヤ・デレンは、ハリウッド映画とは別のスタイルの映像表現を開拓した女性監督です。44歳で亡くなるまでに6本の映画作品を完成。後世に、大きな影響を残しました。
マヤ・デレンは、 1917年、ロシア革命の年にキエフのユダヤ人精神科医の元に生まれました。マヤが9歳の時にアメリカに移住。大学ではジャーナリズムや政治学を専攻します。黒人舞踊家キャサリン・ダンハムと出会い、興味はダンスと人類学へ向かいます。アメリカ西海岸でチェコからの亡命中の映像作家アレクサンダー・ハミッドと出会い結婚。翌1943年、マヤが26歳の時に二人の共同で『午後の網目』を制作し、カンヌ映画祭で実験部門のグランプリを獲得します。
 マヤ・デレンのドキュメンタリー映画「鏡の中のマヤ・デレン」を観ましが、たくさんの発見がありました。敬愛するスタン・ブラッケージ監督との深いつながりも知ることができました。ブラッケージは、2000年にマヤ・デレンに捧げる『Water for Maya』を制作しています。
 今年の映画祭のメイン企画といえるのは、新海誠監督の「星を追う子ども」上映とトークです。500席が、ほぼ埋まっていました。新海監督の人気は、そうとうです。
 新海誠監督は、2002年にパソコンを使って1人で製作した「ほしのこえ」で「第1回新世紀東京国際アニメフェア21(いまの東京国際アニメフェア)」一般公募部門の優秀賞を獲得しました。たった1人でアニメを製作し、認められたことで、多くの若者に希望を与えました。その影響の大きさは、高く評価しなくてはなりません。しかし、彼はメジャーになり、共同で普通のアニメをつくり始めます。
 今年公開された「星を追う子ども」は、とても丁寧につくられています。ただ、作品的には、ジブリのまねという感じがします。ジブリ風の映像はともかく、肝心のストーリーに説得力がありません。これまでの新海作品の切なさという魅力がありません。大きなマーケットを狙ったのでしょうが、作品的には面白みの少ない出来だと思います。
 上映後のトークで、どのように作品をつくっていくのか、具体的に説明され、膨大な絵コンテを見ることができました。そういう意味では、貴重な経験でした。
 あらためて「観た恋するトマト」は傑作ですね。日本の農村の後継者難など、日本とフィリピンが抱える深刻な問題を描いています。 2005年の劇場公開ですが、時間が経つほど輝きを増しました。 企画・脚本・製作総指揮・主演を、大地康雄さんが務めました。 上映後の大地康雄さんのトークショーも充実していました。

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