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2011.12.30

2011年・劇場映画独断ベスト10


私が、2011年に劇場で観た映画の中から選んでいます。ご了承ください。
【洋画】
1位「未来を生きる君たちへ」
デンマーク映画。スサンネ・ビア監督。暴力と赦しという普遍的な問題を、紋切り型でなく、具体的に、そしてリアルに描いています。子供の諍い、夫婦の諍い、デンマークとスウェーデンの諍い、アフリカの諍いが描かれ、そのらが連鎖して人々を苦しめます。心が揺さぶられます。生々しい人間表現と繊細な映像美。独特の感性を持つ監督です。
抑制された演技に込められた大人たちの屈折した思いが、激しく胸をうちますが、エリアスとクリスチャンという2人の少年の演技のリアルさも、この作品を支えています。ふたりは、演技経験が全くなかったというから驚きです。
 スサンネ・ビア監督は「ある愛の風景」でアフガニスタンの戦乱、「アフター・ウェディング」ではインドのスラムとデンマークをつなぎました。今回はアフリカの過酷な難民キャンプとデンマークがつながっています。監督は「複雑になってきている世界の一部なんだと感じることが大切」と話しています。

2位「ブラック・スワン」
 ニューヨーク・シティ・バレエ団を舞台にした、ダーレン・アロノフスキー監督の「ブラック・スワン」は、監督の熱い思いが詰まった傑作です。なんといっても映像の強さに、圧倒されます。衝撃的な映像にあふれています。ラスト近くは、ほとんどホラーのような錯乱映像。その独特な表現に、ついていけない人も多かったようですが私は感動しました。
  ニナ役ナタリー・ポートマンの演技は、眼を見張るものがありました。10か月トレーニングして、ほとんど自分で演じています。ポートマンは努力家で、これまでも汚れ役を演じてきましたが、どこか冷めた眼で自分を分析しているところがありました。今回は、ニナと同じように殻を破り、ともに錯乱していくほどの熱演でした。

3位「英国王のスピーチ」
第83回アメリカアカデミー賞の作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞の4冠を獲得しました。
演説のうまいヒトラーが率いるドイツとの開戦スピーチに臨む、言葉がうまく話せない吃音症(きつおんしょう)に苦しむジョージ6世の物語です。そのジョージ6世を支えたのが、専門の医者ではなく第一次大戦のショックで言葉を失った多くの人を治療してきた、役者志望のオーストラリア人という史実に驚きます。
なんと言っても、脚本が素晴らしい。重くならず、あえて下品なユーモアを交えてながら、クライマックスの緊張感あふれる歴史的なスピーチへと盛り上げていきます。アカデミー史上最高齢で脚本賞を受賞したデヴィッド・サイドラーは、73歳です。エドワード8世役のガイ・ピアースが、コリン・ファースと華やかです。対照的なキャスティングも見事でした。

4位「人生、ここにあり!」
ジュリオ・マンフレドニア監督。イタリアで観客動員40万人を超え、54週ロングランを記録し、イタリアのゴールデングローブ賞を受賞した作品です。イタリアでは精神病院廃絶法であるパザリア法(1978年制定)により、精神病院の患者たちが一般社会で暮らせるようにしようという試みが行われました。そのときの実話をもとにした映画です。病院を出た患者たちと労働組合員が一体となって仕事を見つけ。困難を乗り越えていきます。
精神障害というデリケートなテーマを扱いながら、ユーモアあふれる人間賛歌になっています。個性的な登場人物がぶつかり合い、励まし合う。患者たちが自分たちの力で自信を取り戻していきます。けして美化するのではなく、奇麗ごとではない人間ドラマになっています。  

5位「キック・アス」
従来のアメコミ映画のぬるさをぬぐい去った、軽快なコメディと容赦のないバイオレンス表現が混ざりあった傑作です。全米で大ヒットしたにもかかわらず、過激な表現に腰が引けて日本公開がなかなか決まりませんでしたが、日本でもヒットしました。
 マシュー・ヴォーン監督は、まずソニーと契約して製作費を捻出しようとしましたが、バイオレンス描写を弱めるよう要求をされたため断念。他のスタジオも興味を示しましたが、キャラクター設定の変更を求められたため、結局ヴォーン監督が自分で製作費を調達して完成しました。つまり自主映画。じつに天晴です!!。
「キック・アス」の本当の主人公は、ヒット・ガールです。素晴らしい戦闘能力を持つ11歳の美少女。クロエ・モレッツが、放送禁止用語を連発しながら、キュートに熱演しています。彼女を訓練した父親ビッグ・ダディとともに、喜々として悪人たちを殺し回ります。善悪は別にして、痛快です。

【邦画】
1位「大鹿村騒動記(おおしかむらそうどうき)」
 原田芳雄(2011年7月19日死去)自身が発案し、キャスティングをそろえた「大鹿村騒動記」は、原田芳雄の遺作となりました。
300年以上伝統行事の大鹿歌舞伎をまもりつづけてきた大鹿村を舞台にしています。農村の若者離れ、外国人就労者、公共事業誘致、認知症、性同一性障害、戦争の傷跡など、深刻な問題も盛り込んでいますが、映画は軽妙な喜劇に仕上がっています。名優たちの掛け合いに笑い続けました。少しひいた位置にいる父親役の三國連太郎は、素晴らしく枯れた演技をみせてくれました。
 面白くて、奥行きがあって、ラストはハッピーエンドにせず、とぼけて突き抜けています。原田芳雄の遺作というだけでなく、作品としても傑出しています。

2位「冷たい熱帯魚」
 園子温(そのしおん)監督。全く無駄なシーンがありません。凄まじい完成度でした。
 その映像のパワー、衝撃力は中島哲也監督の傑作「告白」をさえ上回ります。その突き抜けた描写は、清々しいほどです。
まったく救われない家族を描いています。映画を制作した当時の監督は、死んでもいいくらいに落ち込んでいたので、救いのある話で自分が救われるよりも、徹底的に救いのない映画にすることが大事だと思って、つくったそうです。暴力と狂気に満ちているのに、吹っ切れています。吹越満(ふきこし・みつる)、でんでん、黒沢あすかとも、演技の針が振り切れる熱演。それぞれにとって、代表作になると思います。
園子温監督の新作の壮絶な女性映画「恋の罪」も傑作です。

3位「ステキな金縛り」
失敗続きの弁護士エミが、殺人事件の被告人のアリバイを唯一証明するため落ち武者の幽霊を法廷に引っ張り出して奮闘するドタバタコメディです。幽霊が見える人と見えない人がいるという点がミソです。
三谷監督と私は、これまであまり相性が良くありませんでした。今回も旅館の主人の現れ方や検事の奇術は、作為的で好きになれませんが、その他は素直に笑いました。幽霊役の西田敏行をはじめ、芸達者ぞろいの配役で盛り上がりましたが、なかでも検事役中井貴一のとぼけた味が光りました。
ラストのギャグも好きです。エンドロールの心霊写真も笑えるので、お見逃しなく。

4位「一枚のハガキ」
 撮影当時98歳。「一枚のハガキ」は、日本最高齢監督の新藤兼人が、自らの実体験をもとに引退作として製作した戦争ドラマです。枯れた所がありません。その熱さに驚きます。過酷な状況の中の、ユーモラスな表現にも驚きます。大竹しのぶの、俳優としてのすごさをあらためて感じました。
ほとんどの戦友が死ぬ中で、監督が生き残った負い目に耐えながら生きてきたことがよく分かります。それが、映画をつくる原動力になったことも。この作品は、新藤兼人監督の初心であり、集大成です。

5位「八日目の蝉(ようかめのせみ)」
成島出(なるしま・いずる)監督の「八日目の蝉」は、容赦のない過酷な展開の末に、ぱっと明るい結末がやってきます。とても驚かされる作品です。 
女優たちが熱演しています。 井上真央(いのうえ・まお)、永作博美(ながさく・ひろみ)、森口瑤子(もりぐち・ようこ)が、ぎりぎりの演技を見せます。子役の渡邉このみも、うまかったです。しかし、一番印象に残ったのは、小池栄子(こいけ・えいこ)です。彼女は堂々とした演技が多いですが、今回は猫背で、居場所を失った女性を好演していました。なかなかの演技派です。

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