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2011.10.03

■2011年9月の映画評


★「一枚のハガキ」
 撮影当時98歳。「一枚のハガキ」は、日本最高齢監督の新藤兼人が、自らの実体験をもとに引退作として製作した戦争ドラマです。枯れた所がありません。その熱さに驚きます。過酷な状況の中の、ユーモラスな表現にも驚きます。大竹しのぶの、俳優としてのすごさをあらためて感じました。
ほとんどの戦友が死ぬ中で、監督が生き残った負い目に耐えながら生きてきたことがよく分かります。それが、映画をつくる原動力になったことも。この作品は、新藤兼人監督の初心であり、集大成です。

 本当にたくさんの新藤作品を観ました。こんなにも長く作品を楽しめるとは思いませんでした。私が、一番好きな作品は「裸の島」(1960年)です。この映画は無言の映画詩の傑作ですが、極端に低い製作費でも優れた作品を撮ることが可能であることを示した点でも、インディペンデント映画の製作に、多大な影響を与えました。

1952年、戦後初めて原爆を直接取り上げた「原爆の子」も、歴史的な作品です。世界的にも反核映画の第1号となり、高い評価を受けました。カンヌ国際映画祭に出品し、米国が圧力をかけ、外務省が受賞を妨害したことが明らかになっています。
パワフルで、とぼけた味わいの「北斎漫画」(1981年)も好きです。


★「バビロンの陽光」
 バクダット出身のモハメド・アルダラジー監督によるイラク映画。イラクには映画館がなく、2003年以降3本しか映画が製作されていません。イランとは、大違いです。

 2003年、フセイン政権の崩壊から3週間後のイラク北部クルド人地区が舞台。戦地から戻らない父親を探して旅をする12歳の少年と祖母の姿を描きます。ふたりは、ヒッチハイクをしながらバスを乗り継ぎ、空中庭園の伝で知られる古都バビロンを目指します。クルド語しか話せない祖母を、孫のアーメッドが片言のアラビア語で助けます。気のいいトラックの運転手、路上生活の少年、クルド人殺戮に加担して心に傷を負う元兵士らとの出会いがあり、辛い現実に直面します。

イラクでは、過去40年間で行方不明者が150万人を超え、300もの集団墓地から数十万もの身元不明の遺体が見つかっています。祖母は疲労と絶望で死を迎え、孫が一人残されます。ラストシーンでは、バビロンの「イシュタル門」が陽光に輝きます。

映画産業がないので、出演している祖母や孫のアーメッドは、一般人です。恐ろしくリアルな演技をしています。悲惨なイラクの現状、クルド問題の難しさなどを描きつつ、ときにユーモアを交えながら巧みにまとめあげています。バビロンのシーンも、古代のシュメール文明を思い出そうというメッセージなのでしょう。素朴ながら、力強いメッセージを感じました。


★「スーパー!」
 ジェームズ・ガン監督。冴えない中年男性のフランクは、美しい妻の存在が唯一の生き甲斐だったのですが、妻の薬物依存が再発し、ドラッグディーラーのジャックに取られてしまいます。妻は、リヴ・タイラー、ジャック役はケヴィン・ベーコン。フランクの怒りが爆発、神の啓示を受けて赤いコスプレヒーロー「クリムゾン・ボルト」に変身。スパナで身近な悪人をなぐり続けます。
 主人公を手助けするのが、ヒーローに憧れるコミックショップの店員リビー。エレン・ペイジが、可愛くて、ちょっと怖い、ぶっとんだ演技を見せます。エレン・ペイジの魅力爆発です。生真面目な主人公と、騒ぎまくるリビーが絶妙のコンビを組みます。
 映像表現が、とても泥臭いです。ことさらグロテスクさが強調され、「キック・アス」のような格好良さがありません。ヒーロー批判としては、この作品の方が鋭いですが、映画としての爽快感はありません。しかし、なかなか、考えさせられる映画でした。

★「マルドゥック・スクランブル 燃焼」
 傑作アニメ「マルドゥック・スクランブル 圧縮」を、どうつないで行くかが、注目された第2部、「マルドゥック・スクランブル 燃焼」。大胆な色彩設計を取り入れて魅力的な映像を魅せてくれましたが、アクションシーンが少なく物足りなさが残りました。「圧縮」には面白さが凝縮されていましたが、「燃焼」は十分に燃え上がりませんでした。カジノのシーンが多かったからでしょう。
ただ、エンドロールで流れた本田美奈子の「アヴェ・マリア for Balot」は、まさに天上の歌声でした。「圧縮」の「アメイジング・グレイス 」以上に、心にしみました。
主人公の少女の名前はバロット( Balot)。孵化直前のアヒルの卵を加熱したゆで卵でした。あの羽のあるやつです。万能ネズミの名前ウフコックは「半熟卵」の意味。題名からして「スクランブル」。卵づくしです。

★「うさぎドロップ」
 宇仁田ゆみ原作のコミックの実写化です。 SABU監督。 27歳独身のダイキチと6歳の少女りんの、ほのぼのとした物語。ダイキチ役の松山ケンイチは、相変わらず器用ですが、りん役の芦田愛菜(あしだ・まな)の哀しみをたたえた眼の演技に打ちのめされました。うますぎます。

 ただ、原作とは違う展開に、違和感を感じる人もいるでしょう。原作が地味ながら味わい深いのに対し、実写版は不自然に派手なシーンが目立ちます。とくにダイキチの妄想は、しつこすぎて興ざめしました。しかし、まあ、そこそこ楽しめる作品にはなっていたと思います。

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