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2010.09.26

2010年9月の映画評

★「ゾンビランド」
 ルーベン・フライシャー監督。最高に楽しいゾンビ映画です。
引きこもりで友達もいないネットゲームおたくの大学生のコロンバスは「ゾンビの世界で生き残るための32のルール」を作り、それを慎重に実践して生き延びていました。屈強な腕力と抜群の射撃テクニックでゾンビ地獄を生き延びてきたワイルドな男タラハシーと出会います。そして、ふたりは詐欺師の姉妹にだまされながら、お互いの必要性を感じ、4人は行動を共にします。一種のロードムービーです。物語のなかで、ビル・マーレイが本人役で登場します。
 最初の5分間、本当に目が釘付けになります。そして、遊園地でのバトルシーンは歴史に残る名場面です。恐怖とコメディとハートウォームが絶妙に混ざり合い、新しいゾンビ映画の傑作が誕生しました。
 ゾンビ映画としては、『ドーン・オブ・ザ・デッド』を超えて北米トップの成績。続編が企画中です。楽しみです。

★「闇の列車、光の旅」
キャリー・ジョージ・フクナガ初監督作品。33歳。日系監督による中南米映画。スリリングなロードムービー。2009年のサンダンス映画祭で監督賞と撮影監督賞を受賞しています。
監督は、実際に難民と同じ列車に乗り、彼らと旅をして作品にしました。だから、恐ろしいほどのリアルさです。細部にわたって、感心しました。そして、差別の問題など、さまざまな要素を自然にまとめあげています。全体にオーソドックスな映像ですが、時折挿入される俯瞰風景が強烈な印象を残します。ラストのキレも抜群でした。
新しい監督の作品には、いつもわくわくさせられます。

★「悪人」
 「フラガール」のリ・サンイル監督作品です 。観終わって、周囲から「重い」「分からない」という声が聞こえてきました。どこか、ドロドロした1970年代の感覚が戻ってきたという感じです。

ヒロインの深津絵里(ふかつ・えり)が、第34回モントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を受賞しました。モントリオール世界映画祭で日本人が最優秀女優賞を得たのは、1983年の田中裕子(『天城越え』)以来、2人目です。
深津絵里の演技が国際的に認められたことは喜ばしい。彼女は才能があります。妻夫木聡(つまぶき・さとし)も熱演でした。樹木希林、柄本明らベテラン勢も作品を盛り上げていました。
 俳優で、一番驚いたのは、満島(みつしま)ひかりの演技でした。空虚な生き方は、まさに現代を象徴していました。映像で一番驚いたのは、イカの眼のアップからの場面転換でした。何という奇妙なアイデアでしょう。
「悪人」という題名には、殺人犯=悪人と単純に善悪を2分して安心したがる世間に対する批判が込められている。登場人物たちの、一見奇異な行動も、深い人間洞察に支えられている。安易に説明しないことで、観客が試される映画です。ただ、映画的な面白さが多いかと言えば、必ずしもそうとはいえません。
「フラガール」は、社会的な背景を描きつつ、ラストではじけたので観ていて気持ちよかったですが、「悪人」は、問いを投げかけたまま終わります。

★「カラフル」
「河童のクゥと夏休み」 (2007年)に続く原恵一(はら・けいいち)監督の劇場アニメ作品。森絵都(もり・えと)の小説『カラフル』が原作。
「僕」は一度死んだが、天使に「抽選にあたりました!」と言われ、生まれ変わって「小林真」という中学生としてもう一度人生をやり直すチャンスを与えられます。
 最初は、わざとらしくて、「何だこれは」と思いました。正直、3分の2はやや退屈です。しかし、その退屈を吹き飛ばす素晴らしいラストが用意されています。 テレビアニメからではなく、こういうオリジナルのアニメが劇場公開できる環境がずっと続くことを願います。




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2010年8月の映画評


★「インセプション」
 題名のインセプションは、始まりの意味。チラシなどで伝えられていた夢の中でアイデアを盗む物語ではありません。いかに「考えを植え付け」るかのドラマです。
「インセプション」は、クリストファー・ノーラン監督が16歳のころから思い描いていたアイデアをもとに自ら脚本を書いたものです。とても、独創的なアイデアで、大仕掛けで派手に見えますが、基本に「スパイ大作戦」的な頭脳プレイがあって、懐かしかったですね。
ディカプリオのほか、渡辺謙、ジョゼフ・ゴードン=レヴィット、マリオン・コティヤール、エレン・ペイジ、マイケル・ケインら日米英仏の俳優が集結。撮影は東京から始まり、ロサンゼルス、カルガリー、ロンドン、パリ、タンジェと6カ国で行われました。
本当の主人公は、ディカプリオ演じるドム・コブではなく、奥さんのモル・コブではないかと思いました。マリオン・コティヤールの鬼気迫る熱演は、ディカプリオを圧倒していました。アリアドネ役エレン・ペイジとの火花を散らす対決も見物です。
クリストファー・ノーラン監督らしいひねりの利いた設定です。トラウマを抱えたレオナルド・ディカプリオが苦悩しつつ闘います。「シャッター アイランド」を思い出してしまうかも。そして「シャッター アイランド」と同じく、1度観ただけでは理解できないかもしれません。
予告編では、街並みが直角に建ったり、古いビルが崩れ落ちたり、無重力のアクションシーンがあったり。しかし、この作品を支えているのは、夢の多層構造と下層の夢ほど時間の流れが遅いというアイデアです。
 独楽が出てきます。とても重要な意味を持っていますが、ある意味、この作品そのものの比喩、象徴なのかもしれません。ラストシーンの独楽の動きに注目です。

★「ハロウィンII」
「ハロウィン」第1作からおなじみの「HALLOWEEN THEME」は、「ハロウィンII」(2009年)では、最後に流れます。単調なリズムだけれど、一度聞いたら頭から離れなくなります。
「ハロウィン」はジョン・カーペンター監督が1978年に第1作を制作しました。「13日の金曜日」「エルム街の悪夢」の原点といえるホラー映画。2002年までに8作の続編が作られ、2007年には第1作のロブ・ゾンビ監督版リメイクも制作されました。「ハロウィンII」は、オリジナル作品。
ロブ・ゾンビ監督は、もともとミュージシャン。1985年にニューヨークでホワイト・ゾンビを結成し、音楽活動を開始しました。音楽以外にも映画の監督・脚本、ミュージックビデオの監督、テレビ番組のホスト、コミックスの制作等幅広い活動をしています。そして、ベジタリアンです。
 ホラーと言っても、暗めの映像で、殺害方法も単調だし、今の観客には物足りないかもしれません。意味ありげな幻想シーンも、月並みです。しかし懐かしいテイストです。CGは使っていない。家族のドロドロがテーマです。あまり怖くありませんが、最初の傷口を縫うシーンが痛かったです。
ロブ・ゾンビ監督の奥さんは女優のシェリ・ムーン・ゾンビ。「ハロウィンII」では、マイケルの母デボラ・マイヤーズとして、幻想的なシーンで登場します。白馬を連れていて、きりりとして美しく、その場面だけミュージックビデオみたいです。
 「ハロウィン」主人公サイコキラー・ブギーマンの名前は、マイケル・マイヤーズ。今回はテレビ出演のシーンで、オースティン・パワーズ主演のマイク・マイヤーズと間違えるという、しょうもないギャグが出てきます。
「ハロウィンII」が始まって間もなく、病院のシーンで流れる曲がムーディ・ブルースの「サテンの夜」。たおやかな曲調が、その後の惨劇を引き立てます。

★「ザ・コーヴ」
「ザ・コーヴ」はドキュメンタリーの迷いや葛藤が全くないプロパガンダ映画です。しかし、映像を編集して共感させる技術力は高いです。 撮影姿勢や作為的な編集は下手なのではなく確信犯的なものです。反捕鯨運動にとって最も利用しやすい事例として太地のイルカ漁が選ばれた。「ザ・コーヴ」はまさに政治です。
ただ、「ザ・コーヴ」に限らず、あらゆる作品の公開を妨害することには反対です。しかし、当事者たちらが反論する機会も尊重されなければなりませんね。
「ザ・コーヴ」の登場人物の中で、リック・オバリー氏の願いだけは、真摯に受けとめることができました。彼を利用するのではなく、彼の思いを中心に展開していたら、説得力のある作品になったと思います。しかし、彼は利用されているだけでした。
 日本や太地町の漁民は、単純な悪として描かれ、リック・オバリーらは単純な善として描かれています。 私は、銀幕と呼ばれた頃の白黒映画が大好きですが、物事を単純に白か黒かと線引きする映画は好きになりません。
「ザ・コーヴ」が第82回アメリカアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞したことを驚くことはありません。アメリカのアカデミー賞は、いつだってそうです。作品賞がアメリカの偽善に満ちた「ハート・ロッカー」なのですから。
「ザ・コーヴ」の制作、上映をめぐるさまざまな動きを追うドキュメンタリーがつくられたら、とても有意義な作品になると思います。

★「キャタピラー」
寺島しのぶが2010年ベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞した「キャタピラー」(若松孝二監督)。キャタピラーは、重機ではなく「芋虫」の意味です。江戸川乱歩原作「芋虫」が下敷きになっていますが、そこに社会的な背景を盛り込むことで、厚みと鋭さを持った戦争批判映画になっています。
戦争の残酷さを描いたという点では「キャタピラー」は、「芋虫」よりも、戦争によって五感と両腕両脚を失ったジョニーを描いたドルトン・トランボ監督の「ジョニーは戦場へ行った」(1971年)に近いかもしれません。
男女の性愛と戦争というと、大島渚監督の「愛のコリーダ」を思い出しますが、「キャタピラー」とは捉え方が違います。「愛のコリーダ」では、性愛と戦争は対峙していますが、「キャタピラー」では性愛と戦争は絡み合っています。

「ちょんまげぷりん」
荒木源(あらき・げん)の小説「不思議の国の安兵衛」が原作ですが、「ちょんまげぷりん」の方が作品にぴったりだと思います。文庫化にあたって小説の題を「ちょんまげぷりん」に変えたのは正解でした。
 これほど、面白くて笑って、感動して気持ち良く見終わることができる作品は久しぶりです。侍が現代に来た理由。きちんと決まったオチ。見事です。
「ちょんまげぷりん」というふざけた題名だから軽いコメディだろうとか、ジャニーズの錦戸亮(にしきど・りょう)が侍を演じているからお気楽なアイドル・ドラマだろうという先入観を持たないこと。だまされたと思って、みてください。
ラストにながれる忌野清志郎(いまわの・きよしろう)の「REMEMBER YOU」が、作品の余韻にぴったり。とても的確な選曲だと思いました。


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■日本国内に世界初のマニ教「宇宙図」 

 3世紀に誕生し、善悪二元論を教義として世界的な宗教に発展しながらも滅びたマニ教の宇宙観を描いたとみられる絵画が国内に存在することが26日までに、京都大の吉田豊教授(文献言語学)らの調査で分かった。「10層の天と8層の大地からなる」というマニ教の宇宙観の全体像が、ほぼ完全な形で確認されたのは世界で初めて。
 マニ教は布教に教典のほか絵図も使っていたとされるが、絵図は散逸。宇宙観は教えの根幹につながるもので、今回の発見を公表した国際マニ教学会で「画期的」と高い評価を受けた。吉田教授は「不明な点が多いマニ教の解明につながる」と話している。
 吉田教授が「宇宙図」と呼ぶこの絵画は、現在国内で個人が所蔵している。縦137・1センチ、横56・6センチで、絹布に彩色で描かれている。仏教絵画との比較などから、中国の元(1271~1368年)、またはその前後に、現在の浙江、福建両省など江南地方の絵師が制作したとみられるという。日本に渡った時期などは不明。
 吉田教授らは、マニ教僧侶の特徴である赤い縁取りの入った白いショールを着た人物が描かれていることや、中国・新疆ウイグル自治区で見つかっているマニ教史料との照合などから、マニ教の絵画と断定した。

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